エル・フェアリア
□第27話
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「やーでもしくじったわ。まさかこんなけしか集まらないとか。優秀な奴らにはここに集まって大人しくしててほしかったんだけど…いくら俺とあいつの魔力でも、王城全域の人間を押さえ込むなんて出来ないし」
「…誰が狙いだ!!」
コウェルズの叫びに、パージャはゆっくりと首を傾いだ。
「んー…ここにはいないかなぁ」
答えはどこまでも隠して。だが天空塔にはいないという事実に、エルザとクレアが息を飲む。
「…フェントか、オデットを…?」
ミモザの言葉は涙ぐむようにかすれていて。
危険だからと、フェントとオデットは騎士達ごと有事の際の防護室に隠されていた。
だがパージャの力だけでこれだけの騎士や魔術師が追い詰められているというのに。
「…ここにいない王族付き達は、皆二人の護衛にいますわ!」
「−−やっぱそうなるよねえ?」
せめて強がるように、ミモザはパージャを睨み付ける。防護室の場所は、パージャは知らないはずだ。そんな場所があることも。知らない場所を、探し出せるのかと。
大切な妹達は絶対に奪わせない。だがなぜ、パージャはまだ余裕でいるのだ。
「…事情が変わったと言っていたな…ファントムは訪れるのか?」
そしてコウェルズは、パージャが先ほど口にした言葉を問うた。
事情が変わった。パージャは確かにそう言った。
事情が変わったなら、パージャのこの状況をファントムは知っているのか。
暗に訊ねれば、パージャの瞳からスッと表情が消え失せた。しかしそれは何もコウェルズの言葉が的を射ていたわけではなく。
突如、天空塔の窓ガラスが内側へと割れた。
天空塔の蔓が騎士達に降り注ごうとするガラスの破片を受けて、傷付いた箇所から血のように透明の液体を流す。
割れた窓の向こうから現れたのは、ナイナーダと数名の魔術兵団だった。
「捕らえに来たぞ、肉だるま」
微笑みを浮かべて、肉だるまなどと訳のわからない名でパージャを呼んで。
パージャが表情を無くした理由だった。
「…ひっどー。そんなトコから入って王子や姫が怪我してもいいわけ?」
「我々は“王”の命でのみ動く」
冷やかすような言葉にナイナーダは主君こそがと返す。
王がそう命じたというのか。パージャを捕らえる為なら、コウェルズや七姫達が傷付いても構わないと。
「魔術兵団!今すぐフェントとオデットを守りに向かえ!!」
コウェルズはすぐにナイナーダ達に命じるが、彼らは微動だにしなかった。
「何をしている!?」
「残念ですがコウェルズ様、あなたが我々に命を下すには少し早いようです」
まるで小バカにするように、ナイナーダを含めた魔術兵団達がクスクスとこの場にそぐわない微笑みを浮かべる。
「っく…」
いくら政権を握る王子であろうが、王でない限り魔術兵団は操れない。その事実にコウェルズは強く苛立ちを覚えた。
役に立たない父王。まさかこんな所で邪魔をするのか。
「それに、騎士団や魔術師団がこの有り様では…ねえ?」
そしてざっと周りを見渡して、無様に潰れるニコル達を嘲る。
「勝手ぬかしやがって…」
スカイは吐き捨てるように呟くが、ナイナーダ達に届くはずもない。
「ま、俺は出来る限り頑張ったし、もういいけど−−」
そう呟いて突如、パージャの体がバラバラに崩れ落ちた。
小間切れという言葉がこれほど似つかわしい状態も他に無いだろうほどボトボトと地に落ちた肉片に、辺りが一瞬音を無くしたように静まり返る。
「−−きゃああああっ!」
エルザが悲鳴を上げて、ミモザは強く目を背けた。クレアは呆然としたまま動けないコレーを庇いながら、目を伏せる。
「…これでも死なないか?」
呟いたのはガウェだ。
ガウェの体も他の者達と同様に大量の黒百合によって押し潰されている。しかしその手のひらからは、細長い糸が地を這い、パージャの体の存在した場所の床にぐるぐると絡まるように伸びていた。
ガウェの魔具の糸が、パージャの体を小間切れに変えたのだ。
ガウェの勝手な行動にナイナーダがわずかに苛立ったように頬をひくつかせた。
「…ガウェ!!」
「…っ」
だがその後の様子に、コウェルズもガウェも唖然とした。
ナイナーダは先ほど目の当たりにしている。
「…無駄だよ、黄都領主」
嬉しそうに微笑みを浮かべるナイナーダの目の前で、パージャの体はパズルのように元通りに治っていく。