エル・フェアリア

□第21話
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 騎士団にも一人だけ魔術騎士はいるが、魔術騎士と魔術兵は似て非なる。
「王城騎士と王族付き騎士みたいな違いだな!」
「恐らくはね…」
 いまいち事態を理解していないのか、他国情勢の為にあまり考えてはいないのか、ヴァルツは無邪気にポンと手を叩いて魔術兵団について想像する。
 気楽でいいなぁとため息を付けば、視線に気付いたヴァルツがあながち的外れでもない助言をしてくれた。
「何だ難しい顔をして。決断に困っているなら兄上に相談するといい!兄上の知恵ならきっと打開案を示してくれるぞ!」
 大国ラムタルの若き賢君バインド。彼はいつだって、コウェルズに知恵を貸してくれたではないか。
「…そうしようかな」
 エル・フェアリアの情勢を教えるわけではない。ただ少し、生き方の相談に乗ってくれる人。コウェルズにとって、父の代わりとなってくれるほどの。
 久しく会えていないバインドを思い浮かべながら、コウェルズはこのまま眠ってしまいたいような倦怠感を抱えてベッドに仰向けになった。

−−−−−

 訓練もせず一人ふらりと書物庫に訪れたパージャが見かけたのは、護衛の騎士二人に遠巻きに見守られていた第五姫フェントの姿だった。
 若干13歳の内気な姫だが貪欲なほど知識を求める癖があり、一度目を通した内容はほとんど忘れないほどの記憶力も持っている。
 書物庫内の膨大な情報は全て頭に入っているとも噂され、以前ファントムとエル・フェアリアの結び付きを見つけたのも彼女だった。
 成人前のお子様とは思えないほど大人びた様子は、少し心配にもさせる。13歳ならもっと遊びたがってもいいはずなのに、彼女は早く大人になることを選んでしまったようなのだ。
 子供の頃に遊び学んだ経験こそが魅力的な大人になる道だというのに。
 書物庫内に立ち入れば、二人の騎士がパージャを見かけて静かにと合図を送ってくる。
 何事かと思えば、フェントが長テーブルに資料やら何やら色々広げて目を近付けて格闘しているではないか。
 ただでさえ視力が悪くなり眼鏡をかけているのに、あれではもっと悪くしてしまう。
 というか猫背になってしまったらどうするつもりなんだ、なんて親でもないのに親心を出してみたり。
「…こんなとこでどうしたのー?お姫様」
「あら…パージャ」
 騎士達の無言の制止も聞かずに身勝手にフェントに近付けば、姫はゆっくりと曲げていた背中を伸ばしてパージャを見据えた。
 最近は妹達に触発されてお洒落に興味を持つようになったと思っていたが、今日は以前のやぼったい髪型に戻ってしまっている。
 長テーブルに広げられていたのは一冊の書物を中心にいくつかの古文書や白紙の紙で、どうやら何かを書き写している様子だった。
 今は使われていない異国の古い文字を解読している途中なのだろう。
 妹のコレー姫の緊急事態と何か関係があるのだろうか?
「これってユナディクス国の古代文字じゃん」
 フェントが一語ずつ地道に解読している文字には見覚えがあり、さらりとその正体を告げるパージャをフェントは目を丸くして見上げてきた。
「…わかるのですか?」
「まぁ、ちょっとくらいならね」
 驚くのも仕方無いだろう。王城にいる者の多くが近隣諸国の言語を覚えてはいるが、古代文字ともなれば話は別だ。エル・フェアリアの古代文字ですら、理解できるものはごくわずかだろう。
 フェントは呆けたようにしばらくパージャを見つめていたが、やがて無意識のような動作で腕を伸ばし、テーブルについていたパージャの腕の袖を引っ張った。
「…なら手伝っていただけませんか?私はユナディクス国の文字はわかるのですが、古代文字となるとあまり…」
 突然の申し出に、パージャよりも後方の騎士達の方が驚いている。
「べつにいいけど?何したいのさ?」
「こちらはユナディクス国からお預かりした、ファントムに奪われた宝具についての文献です」
「−−…」
 フェントの説明に、パージャは誰に知られる事もなくわずかに息を飲んだ。
 ファントムは今までに七つの国で毒にも薬にもならないようなガラクタの宝具を奪い去っていった。
 それらは古ぼけ忘れ去られていたものばかりだったが、フェントはそれらから繋がりを見つけ出してみせたのだ。
 その知識量には恐れ入る。
 所詮知識程度だと割り切るにはあまりにも聡すぎた。

 
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