短編

□指先
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『ハルの手ってさ、すごくキレイだよね』
「…え?」


唐突に自分の手を褒められた遙は、思わず自分の手を見た。


「そう、か?」
『うん』


不思議そうな遙の手をとり、するすると触り始める加奏。
指細い、と自分の手と比べている。


『私ね、ハルの泳ぐ手が好き』


えへへ、とやわらかく笑いながら言った。


「…手フェチか?」
『んー…そうかも』


遙の問いに答えると、今度は指先に触れた。


『指先で、すーって水の中に溶け込んでいくのが好きだなぁ』
「水は生きている」
『ふふっ、そうだね』


水に溶け込む、という言葉に反応し、キリッとした表情になる。
そんな遙を見て、加奏は思わず笑みがこぼれた。


『私も泳げばハルみたいな手になるかな?』
「泳いでみればいい」
『でも私、泳げないんだよね』
「…」


ハハハー…と薄い笑いが七瀬家の居間に響いた。


「仕方ないから、俺が教えてやる」
『本当!?』
「ただし、俺はフリーしか泳がない」
『うんうん!』


やったぁ!と子供のようにはしゃぐ加奏。


「…最初からこれが目的だったのか…?」
『ん?』
「いや、なんでもない」


そうこうしているうちに、玄関の方から「ハルー」と呼ぶ声が聞こえた。


「真琴だ」
『行こっか、ハルちゃん!』


ちゃんを付けるな、といいつつも加奏の笑顔につられ、遙も玄関へ向かった。




お題『確かに恋だった』様より

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