短編

□鼓動※自殺ネタ注意
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腕にある無数の切り傷。
傷口から流れ出る血液を、光のない目で見つめ、呟いた。


『…痛くない…』


再びカッターを手にし、刃先を肌にあて、グッと力を入れた瞬間に、声がかけられた。


「おい」
『!?』


カッターを握っていた手の力が緩み、カシャンと床に落ちた。
赤司はそれを拾い、刃先に付着した血を指で拭った。


「何をしていたんだ?」
『…何でもいいでしょ』


フイッと赤司から顔をそむけた加奏に、赤司はため息混じりに言った。


「まぁ、何でもいいが…その左腕、見せてごらん」
『……』


左腕、と指摘されて否定することなく赤司に差し出した。
想像以上の傷の深さに、一瞬だけ眉をひそめた。


「これはまた、派手にやったね」


時々、わぁ痛そう、とかわざとらしく言いながらも手際よく傷口のてあてをした。


「はい、終わり」
『…ありがとう』
「どういたしまして」


ふぅ、と一息つき、加奏の隣に腰をおろした。
痛かった?と聞くと首を横に振った彼女の手を優しく握る。


「人はどうして自分を傷つけるかわかるかい?」
『…わかんない』
「そうか。でもキミが一番わかってると思うよ」


加奏が頭に疑問符を浮かべたところで、赤司は彼女を抱きしめた。


「…痛みを感じたかったんだろう?」
『!?…っ』
「ほら、やっぱり」


彼女の僅かな動揺も見抜く赤司。
そして、彼女の手を自分の胸のところに置いた。


「ねぇ、加奏。オレの鼓動が伝わる?」
『心臓の音…』
「うん、オレの心臓が動いている音だ」


今度は、彼女自身の胸のところに手を置く。


「どう?キミの鼓動がわかるかい?」
『動いている…心臓…』
「うん。それが、キミが生きている証拠だよ」
『…っ!』


赤司の言葉を聞いて、ずっと曇っていた顔が晴れたようにすっきりとした。

そして、涙が溢れた。


『赤司くん…っ、私、生きてる…』
「うん、加奏は生きてるよ」
『腕、っ痛いの、わかる…』
「そうか…」


赤司は包み込むように加奏を抱きしめた。


「もし、また辛くなったらオレのところにおいで。話をきいてあげるから」
『うん…っ』


彼の鼓動は彼女に勇気を与えた。




お題『確かに恋だった』様より

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