図書館

□瞳は君より物を云う
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「一方通行と友達になりたい」

「頑張ればなれるにゃー」
 ぐへ、と潰れた蛙みたいな声を洩らして上条当麻は机に突っ伏す。その前の席に横向きで座る土御門元春は携帯を取り出し弄っていた。
 ホームルーム終了後の教室に、日誌を付ける為残っていた上条達二人以外の人影はない。
「人がこんなにも真剣に悩んでるっつーのに。何だよその投げやりなアドバイスは」
 頭だけ横に向けて睨めつけるように薄情な悪友の横顔を見上げるが、依然として土御門の視線は携帯画面に注がれており、薄い青のサングラスに液晶の光が反射していた。
「いやいや、女の子と仲良くなりたいという相談ならまだしも、野郎、しかもあの一方通行だぜい? 流石の土御門さんでも専門外ですたい」
 あの、という強調した言い方に一方通行への苦手意識が読み取れて。上条は記憶にある情報との齟齬に首を傾げる。
「でもお前一方通行と仲良いんだろ? この前だって親しげに話してたじゃねーか」
「俺は親しげに話してた覚えは無いけどにゃー」
 あっちも大体同じ様なもんだぜい、と土御門はこちらには一切目もくれずに告げた。
 そうか、友達ではなかったのか。土御門が一方通行と親しいと思っていたからこそ、高校生には恥ずかしい類の相談をこの嘘吐きな悪友にしたというのに。
 人間関係って難しい、と上条は再度机に額をぐりぐり押し付ける。
「一方通行っていまいち何考えてるのか分かんねぇんだよな……何話しても何やっても表情変わんねぇし」
「あれはデフォですたい。基本的に嫌じゃなかったら拒否しない奴だからカミやんは心配する事ないにゃー」
「そう、なのか?」
 確かに、一方通行は上条が何を提案しようが拒否しない。しかしそれが時折、彼に強要させてしまっているのではないかと心配にもなる。
「てか、土御門さん的には何でカミやんがそんな事を言い出したのかが気になる所だぜい?」
「何でって……」
 土御門に指摘されて、暫し考え込む。

「……あれ、何でだろう」
 急に不安に駆られて顔を上げると、今までずっと携帯画面に釘付けだった土御門がこちらを向いていて驚いた。サングラスで表情が読めないのが余計に怖い。
「な、何だよ……」
「……うーん、まさかここまでとは……まっ! それがカミやんなんだから仕方がないんだにゃー!!」
 急に大きな声を出したかと思えば、土御門は鞄を引っ掴んで椅子から立ち上がり、その場を無意味に一回転して上条の方を向いた。
「カッミやーん! 寄り道して帰るぜよっ!!」
 両拳を口元に当てたぶりっ子ポーズで甘えた声を出す土御門元春、性別男。
「チェンジ!! 寮の管理人のお姉さん(代理でも可)とチェンジで!!」
「いつも思うけどカミやんの好みってピンポイント過ぎだにゃー」
 うるせぇ、ロリペタメイドシスコン軍曹よりはマシだ。

「俺の舌はもう既にお好み焼きしか受け付けないんだぜい!!」
「早い! つか、上条さんの家計は年中無休で火の車だからお供は出来ねーぞ」
「そんなもんこの土御門さんの前では何の障害にもならないですたい! 奢ってやるから美味いもん腹一杯食って、悩み事なんざ吹っ飛ばしちまうにゃー!!」
 ガハハハハとサングラスでアロハな友人は肩を組んで半ば引き摺るような体で上条をお好み焼き屋までエスコートしたのだった。

 男の友情を感じた上条だった。完。

 ***

「……と、いう訳でお好み焼き食べて帰って来ただけでごぜえます」
 頭に当たる硬い感触からなるべく意識を遠ざけながら、上条は嘘偽りのない事実を答え切った。彼の後ろで恐怖心を煽っているのはいつもの如く食べ物の恨みにより凶暴化し、代わりに上条を喰らわんと頭皮に犬歯を突き立てる白きブラックホール、インデックス――ではなく。

「それ、本当だろォな……」

 白は白でも純白ではなく。
 黒の似合う白。
 ちょうど上条の後頭部に押し当てられている拳銃のような。
 黒が似合い過ぎる白い少年。
「ウソだったらオマエの頭を吹っ飛ばす」
 一方通行。

 土御門さん、吹っ飛ぶどころか家で帰りを待っててくれてたみたいなのですが。代わりに俺の頭が吹っ飛びそうです。
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