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□幸運少年と不運少年
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 運は良い方だと思う。
 気紛れにクジを引いてみれば何かしら当たる。自動販売機では毎回二本出てくる。欲しいと思った物は必ず手に入る。
 研究に協力すれば勝手に大金が支払われるので金に苦労した事もない。誰かに支配された事もない。能力を使えば逆らう奴はいなくなる。
 好きな時に眠り、好きな物を食べ、好きな様に生きる。世界中の誰よりも自由に生きている筈だった。
 だって誰よりも運が良かったから。だから、二三〇万人の頂点に立っていた。

 彼は運が悪い。
 運試しはまず当たらない。自動販売機に金を呑まれる。行列に並べば目の前で売り切れる。
 大食漢な居候の所為で金欠に苦しめられたりと、いつも誰かに振り回されている。右手の力も無能力者な不良の前では形無しだ。
 学生という縛りの中で、彼は己よりも誰かの為に動き、自らを犠牲にしてでも誰かの人生に首を突っ込んでいた。
 彼は誰よりも運が悪かった。なのに、彼の周りには自然と人が集まっていた。

 彼は不運だった。自分は幸運だった。
 彼は不自由だった。自分は自由だった。
 彼は幸福だった。自分は不幸だった。
 彼と自分の違いなんて、そんなものだった。

 ***

「なァ、不幸野郎、俺は運が良いンだ」
 今日も今日とて金を飲まれたらしく自動販売機の前で項垂れている男の横で金を入れる。あ、と小さく漏らした男の声を無視してボタンに手を伸ばす。
「運試しは当たった事しかねェ。金は一生遊ンで暮らしても余る程にある。正直生きていくのに困った事は一度もねェ」
 だが、という言葉と共にボタンが押され、直後に缶が落ちる音がする。しかしまだボタンから指は離さない。
「本当に欲しい物が手に入った事は一度もなかった」
 ルーレット音が止み、軽快な音楽が二人を包む。一度も文字盤を見ずに再度ボタンを押す。
「クジなンざ何が当たろォが要らねェし使わねェ。缶コーヒーは一本で十分だ。欲しい物が買う前に手に入ったら興ざめもいいところだ」
 贅沢な悩みだな、と隣で男が笑う。
「でもまァ」
 取り出し口から缶コーヒーを二本手に取る。
「オマエに会う前までの話だけどなァ」
 一本を、隣の男に差し出した。
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