図書館
□似てない少年、似ている少年
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【似ている少年】
俺とアイツはきっと似ている。
俺は勝手に、けど確信的にそう思っている。
そりゃあ、髪色も服装も体格も頭脳もレベルも天と地、いや、奈落の底ぐらいの差はありますけどね?
ここまで違っていて、もし俺達が双子だったりしたならば確実に詐欺扱いだし、DNA鑑定待ちでしょうけど。
でもそういうのじゃない。
きっと、そういう事じゃないんだ。
朝、ヨーグルトと間違えてインデックスの黒蜜堂のプリンを食べてしまった。
その後しっかりとインデックス様からのお叱りを受け、買い戻し+二個分の慰謝料を要求された。
ぶっちゃけインデックスの心より、俺の頭皮の方が重傷だと思うのだけれど、そもそも俺の不注意が原因なのだから仕方がないと諦める事とする。
と、その帰り道の事だった。
全身真っ白な後ろ姿を見かけたのは。
その姿をコンビニのガラス越しに見た俺は、腹いせにインデックスに内緒で食ってやろうと思っていたゴージャス肉まんを買う予定を急遽キャンセルし、代わりにホットな缶コーヒーを二本手に取った。
コンビニを出て、まだそれ程遠くない場所を歩いている、背筋は曲がっていないのにどこか猫のような印象のある背中に向かって走った。
そして、公園。
子供達が遊具で遊ぶ声が一番遠いベンチで、アイツと俺は話し込んでいた。いや、正確には俺が一方的に話し掛けているだけなのだが。
アイツは俺が質問こそすれば悪態をつきながらも素直に答える。だが、相槌は一度たりともしない。
聞いているのか聞いていないのか、疑う程目が合わないし上の空だが、まぁ聞いてはいるんだろう……そう信じたい。
そんな俺の独り言に近い行為は楽しいか楽しくないかで言えば、ぶっちゃけ楽しかった。
それは別に、俺が無視されて喜ぶ人種だからではない。ていうか、アイツはあれでも多分、ちゃんと聞いているんだと思う。
俺の話す内容は大方、不幸自慢か大ボケやらかした時の話だ。
アイツは俺の渾身のすべらない話をかまし続けても、無表情無関心な態度を決め込んでいる“つもり”らしいが、実際はそうでもない。
俺の大ボケ話がツボに入った時は、纏っている雰囲気がほんの少し柔らかくなって、口角が上がってる時もあるし、息からは噛み殺しきれなかった笑いが時々零れている。
妹達の話になると、ちょっと気にはなるのか、通常の話より聞き耳を立てて集中しているかのような雰囲気になる。
そこまでしてまでキャラを死守する姿勢には涙を誘うものがあったが、それが本当にそうなのか、俺の思い込みなのかは定かではない。
ただ、本当だったらいいな、と思っているだけだ。
ふと視線を感じて目をやると、アイツがこっちを見ていた。
普段なら絶対何があろうと、例え俺が目線の先に回ったとしてもすぐ背けるであろう(予想)視線を俺に注いでいた。
天変地異か? 地球滅亡の前兆かと戦々恐々としていると、気が付いた。
手の中の缶コーヒーがすっかり冷め切っている事に。
それに気づいた瞬間、体が気温の低下に気が付いた。
風が冷たい。頬が痛い。
なんでこんなに寒いのに今の今まで気が付かなかったのだろうか。
理由は単純。
話す事に夢中だったからだ。
そう気づいた瞬間、急激な羞恥が俺を襲った。
何だか異様に恥ずかしかった。慌てて取り繕うが、俺は上手く笑えているだろうか。
顔から火が出そう、とまではいかないが、今なら頭の上にやかんを乗っけたら熱湯を沸かせられそうだった。ガス代の節約だ。
しかし救いだったのが体から迸る熱を外気がほとんど奪っていく事だ。お陰で顔は赤くならなかったらしい。
恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい。
話に夢中になって周りの事が分かんなくなるってそんなのって――
***
なぁ、知ってるか一方通行。
俺達色んな人達から逆だ真逆だって言われるくらい本当にどこも似てないけどさ、
コーヒーの好みだけは一緒なんだ。