図書館

□上条当麻は腐ってる
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『 俺には秘密がある。それは、誰にも言えない秘密だった。

 ***
 side 浜面

「一方通行……ってさ、結構交友関係広いよな」

 クリームソーダのアイス部分をスプーンで突つきながら、その言葉は何気なく呟かれた。
 俺はとりあえずその言葉を掛けられたのは自分である事を頭の中で確認しつつ、素直に思った事を吐いてみる。
「……誰より大将がそれを言うのか?」
 飲む訳でもなく、ただぐるぐるとクリームソーダに浮いているバニラアイスの周りを掻き回し続けている男は、俺の言った言葉に目を見張り、考え事をするかのように瞳をやや天井付近に向ける。
 やがて答えを弾き出せたのか、へらりと笑った。
 本当に、この男は無邪気に笑う。世の中の暗い所とか怪しい所とか、暗部の下っ端だった俺よりもよく知っている筈なのに、まるで何も知らない子供のように、いつも和やかに笑ってみせるのだ。
「ほんとだ。俺の方が広い」
「だろ」
 短く答えて、少し萎びたフライドポテトを口に入れると男、つまり上条もまたバニラアイスを溶かすように掻き混ぜる作業に興味が移ったようだ。
 男子高校生が飲み物で遊ぶなよ。女子か。
 そんな事を思いつつ、でも言わずにいる俺は、さっきの質問をもう一度よく考えてみた。
 そりゃ、上条に比べたら誰だって狭いに決まっていた。一般的な学生の交友関係なんてたかが知れてる。どうせ学校、家庭、塾などが精々だ。国境を越えた付き合いのある男子高校生なんて、アグレッシブ過ぎてほとんど現実味が無い。
 そしてそんな現実味の無い少年が、今自分の目の前に居るという奇跡。
 世の中、何が起きるか分かんないね。
「でもさ、やっぱ結構知り合い多いよな。一方通行」
「んまぁ、第一位様だからな。それにあの容姿じゃ目立つだろうし」
「……白い兎みたいだよなぁ」
「ぶふっ! そ、それ、一方通行の目の前で言ったら絶対駄目だかんな!」
 えー、褒めてんのに。と含み笑いしている上条は至って普通の男子高校生だ。
 友人の贔屓目に見ても、どう見てもイギリス女王やアメリカの大統領と面識があるとは到底思えない程の平凡っぷりだ。
 何が彼をそこまで押し上げたのだろうか。
 彼の右手に収まっている、異能の力なら何でも打ち消せるという能力だろうか。
 真っ直ぐ過ぎて逆に俺には歪んですら見えるまでの圧倒的な正義感だろうか。
 それとも――、
「……知り合いが多くとも、それが良い関係だとは言えねぇんじゃねぇか?」
「そうかぁ? インデックスとも顔見知りだったみたいだし、俺のクラスメイトとも完全に知り合いだったし、俺の知り合いの女子中学生のストーカーしてた奴とも仲良かったし、何かと結構多い気がするんだけどなぁ……」
 俺的には最後の女子中学生のストーカーがめちゃ気になった。
「ふーん……

 で、大将は何が気になってんの?」

 ぎくり、と分かりやすく上条は背筋を凍らせる。
「え、あ、いや、気になっているというか何というか、きょ、興味本位で聞いただけで……」
 目に見えて慌てふためく上条に思わず吹き出しそうになるのを必死に堪える。
 あぁ、こういう変に分かりやすくて単純な所が人を惹きつけるのだろうか。
「わ、笑うなよっ!!」
 あ、バレた。
 笑いを堪えて肩を震わせている俺を目敏く見咎めた上条は、仕返しと言わんばかりに俺の目の前にあるフライドポテトの山から一気にガバッと大量に取ってもっさもっさ食い始めた。
 あ、むせた。
 再び爆笑の渦に飲まれる俺が立ち直る頃には、上条のクリームソーダのバニラアイスはもう半分も残っていなかった。


「……で、大将は何が気になってんの?」
「……一方通行の交友関係」
「もうちょい詳しく」
「……一方通行と仲良い奴」
「……へー」
「何だその気色の悪い笑みは。言っとくが、変な意味じゃないからな」
 ニヤついているとジト目で見られるが、別に変に勘ぐってる訳じゃない。

 上条当麻と一方通行の二人の間には、他者には理解できない不思議な距離感がある。嫌い合ってるって訳じゃない。ただ互いに遠慮し合っているというか、とてもじゃないけれど昨日のテレビの話題で盛り上がれるような友人関係を築けているとは言えない状態だ。
 だから単純に、一方通行の事を気にしている上条が微笑ましいというか、何というか。

 このままだんだん仲良くなってくれたら、これ以上に望ましい事はないだろう。
 それが二人の共通の友人と自称している浜面仕上の望みでもあった。

「しかし一方通行と仲良い奴かー……打ち止めと番外個体くらいしか……あ、でもカブトムシの奴とは知り合いだったのかな」
「カブトムシ……あ、白い奴か」
「そうそう、第二位って事でなんかライバル関係だったって。色々あってなんか人格変わったらしいけどよ」
「……その話、詳しく」
「お、おう。実は――」
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