図書館

□上条当麻の悪夢
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 とある公園で、その少年はベンチに座っていた。
「今日、夢を見たんだ」
 独り言のように、――いや実際そうなのかもしれないが――小さく小さく呟く。
「そこに“俺”は居なかった」
 譫言のように、小さく小さく呟く。
「でも、“俺”によく似た奴が居た」
 重く暗く沈んだ目を、何処かへ向けていた。
「“そいつ”を中心に、“皆”が笑ってた」
 何処へ向けているか、確認する事が出来なかった。
 少年から目を背ける事が、出来なかった。
「お前が見せてくれた、『上条当麻』の世界によく似てた」
 少年の言葉が重く、重く突き刺さる。
 でも少年の口調は、私を責めている風ではなかった。
 あくまでも終わった事として、過去の体験からくる一例として話題に挙げただけらしい。

「でも違う。そこにいた“そいつ”は、ちゃんと“上条当麻”だったんだ」

 どういう、意味だろう、と。
 呆然とした頭で暫し考え込んだ。
 そして、意外にもあっさりと答えは見つかった。

「知ってるだろ。――俺が、記憶が無いんだって事」
 そうだ。
 あの夏の日に、上条当麻は一度、“死んだ”。
 でも、確かコイツは乗り越えた筈だ。
 あの魔道書図書館にも、ちゃんと言えた筈だ。
 コイツは、記憶が無くても俺は上条当麻だって、胸を張って言えるようになったんじゃないのか……?
「夢で、何も出来ずにただ見ている俺の方を振り返って。“そいつ”が言ったんだ。
 “そこは俺のもんだ”
 って」
 少年と視線が重ならない。
 依然として、何処かを見ている。

「――なぁ、俺は、『上条当麻』なのかなぁ」
 “普段”の彼は、こんな事は言わない。
 例え弱音を吐いて落ち込んでも、すぐに解決に向かう力を取り戻す。
 そんな彼が――、
 怯えている。
 “あの”上条当麻が、怯えている。

 笑っている。
 “何処か”を見て、笑っている。
 “何処”を見ているのだろう。

 “何”が見えているのだろう。
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