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□抱擁
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【 感情移入できないキス、ハグ、傷痕 】
 Accelerator side
 こんなのただの性処理行為だ。気持ちの無い性行為なんて、自慰と同じだから。

 互いに互いを喰わんばかりに貪るようなキスをする。行為が激しくなるにつれ、キスも激しいものへと変化していく。ただ、その先にある最も良い快楽の為だけに。
 その行為は、身が震えるほどの快感とソレのすぐ後に訪れる疲労と共に終わる。今日はどちらも疲れていたのか、比較的早く終わった。
 動くことも億劫で、一方通行は裸のままベットに倒れこむ。
 後処理とか、面倒臭いことは明日でいい。今大事なことは一刻も早く眠ることだ。無心になって目を閉じるが、ベットが少し跳ねたことで浅く目を開けて振り返る。
 視界に黒が映った。どうやら隣の人物も睡魔に身を委ねることにしたらしい。今の態勢では、隣の人物と自分は背中合わせということになる。背中に微かな温もりを感じた……が。
(……さみィ)
 体がブルリと震える。行為中は熱くて気がつかなかったが、今夜は冷え込んでいるようだった。
 欧米でもあるまいし、裸で寝るにしてはこの部屋の中の温度は不適切である。しかし、わざわざ服を取りに行くのは億劫だ。
 それにこの体では服を着る前にシャワーを浴びなくてはならない。
 面倒臭い。でも寒い。
 決心のつかない根性ではベットから抜け出す勇気も出ない。一方通行はそうやってベットの中でうだうだ悩んでいると、背中に感じる温度で気付いた。

 あ。
 あった。二択問題の第三の選択肢。

 寝返りを打ち体を反転させると、一方通行と同じく一糸纏わぬ姿の背中を抱き締めた。
 大きくも小さくもない、自分と同じ体格。角張っていて柔らかくない体は決して抱き心地の良いものではなかったが、不快に感じるまでではない。
 むしろ適度な温もりを感じるので湯たんぽには最適だった。
(あったけェ……)
 これでお心置きなく眠ることができる。一方通行の閉じかけた目が最後に認識したのは、彼の左肩口にある歯型だった。
 行為時に興奮した一方通行が付けたのだろうか。記憶に無いが。
(もしくは……)
 頭に過ぎった考えも、だからどうしたと一方通行は振り払う。
 一方通行には関係ない。
 何故なら一方通行にとって目の前の彼はただの道具なのだから。利用したい時に利用できる、便利な道具。
 だから、一方通行には関係ない。

 抱き締めてから今まである、彼の体の強張りも。
 彼が、一方通行じゃない誰かと抱き合ってるかも知れないと思った時の心のざわめきも。

 一方通行には、関係のないことだった。
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