図書館

□あなた色に染まりたい
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「なぁー。お前何色になりたいー?」
「……あァ?」
 ベットの上に寝転がったまま上条が言った。


 休日のお昼前。一方通行は今日も今日とて打ち止めと共に上条宅に来ていた。しかし肝心の打ち止めはいなく、同時にインデックスもいなかった。
 お好み焼きを上条の家で作ったことをきっかけに、どちらかの家でお昼を作ることが彼女達のブームとなった。そして、買出しに彼女達が行くのも定番化したことだ。
 そして。残された二人が世間話をすることも。


「色、だァ?」
 いつもと同じ座布団に座る一方通行と、いつもと同じようにベッドに腰掛ける上条。双方が手を伸ばせば指先が届きそうな距離だが、二人ともそんなことをしたことがないので正確には分からない。
 物理的な距離は前と変わらないのだけれど、不思議と以前よりは近づいているような気がした。
 そんな穏やかな時。上条が不可解な質問を切り出した。
「そ。一方通行はどんな色になりたい?」
 上条の声が弾んでいる。こういう単純で唐突な質問をしてくる奴は、明快な回答を期待しているのではなくその後に自分の考えを口にしたいだけだ。きっと今さっき思いついたのだろう。
 全く、くだらない。
 面倒くさい奴だ。心の中でそう思いながらも、そんな会話をできることに楽しんでいる自分がいることを一方通行は気付いていない。
「……さァ、特に考えたこともねェ」
 お前はどォなンだ。
 その言葉を言う時に、一方通行は頬が緩みそうになるのを必死で耐えた。

 さぁ、お望み通りの台詞を吐いてやったぞ。思う存分その考えを披露させて見やがれ。
 心の中でそう呟いて、まるで相手が自分の掌で転がっているような感覚に酔いしれる。

 上条の口角が上がった。
「俺は、さ。

 白になりたいな」

 別にその色に自分を重ねるのは、不思議なことではない。視界の端に映る白を見て、一方通行はそう思う。
「……なンでだ?」
 上条の目を見ないように俯いて訊ねた。すると上条は笑ったような声で。
「だってさ。綺麗じゃん?」
 きっと今上条の顔を見れば、こちらを見て微笑んでいるのだろう。
「クク、お前オレンジが好きなんじゃねェのかよ?」
「ん? あぁ、うん。オレンジも好きだよ。
 でも一方通行見てたらさ、白って綺麗だなー、って思って」

 あはは、と少し照れたように笑う上条をチラリと見て、一方通行も喉を震わせて笑う。

「で、一方通行は?」
 上条は首を傾げて訊ねる。
「……さっき言ったじゃねェか」
「だって答えになってねぇし。こういうときは、直感で答えるのがセオリーなの! で、何色?」
 前のめりで目を輝かして訊ねる上条に一方通行はため息が出る。
 仕方なしに目を閉じて、考えてみる。一番最初に浮かび上がった色は……。
「……燈色」
「だ、だいだいいろ? それって肌色のことか? どーして……」
「知るか」
 一方通行の一喝に不満そうに口を尖らせる上条。

「だいだい色かぁーそっかー」
 少し残念そうにその色の名を復唱する上条。
「……どォしたんだよ」
 その表情が気になって、一方通行はつい聞いてしまう。上条は眉を下げて困惑したように目を泳がせ、不自然に頬を染めた。
「あ……いや……く、黒じゃねぇのかぁー。な〜んて思ったり思わなかった、り……」
 恥ずかしそうに語尾を小さくさせる様子に、一方通行はおかしくなって笑う。
「クククク……」
「わ、笑うなよッ! いや、上条さんもちょっとこれはどーかなーと思ってたけど!」
「いや、そこじゃねェよ」
 一方通行は愉快そうに目を細めて上条を見つめて言った。


「てめェに黒なンざ似合う訳ねェだろ、橙色ヒーロー」
「……へ?」

 一方通行がなりたい色。
 一方通行が願う未来。
 そこはとても温かくて、優しい色をしていた。
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