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□似てない少年、似ている少年
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【似てない少年】
俺と上条当麻という男は全く似ていない。
どこを探しても共通点なんて見つからない。
俺は自分で言ってて嫌になるくらい華奢な体型だ。腹も足も腕も、中身が無いんじゃないのかってくらい細い。ぱっと見で男か女か迷われる事も一度や二度の事じゃない。
それに対して上条当麻は、見た目じゃ分からないかもしれないが平均的な男子高校生よりは筋肉がついている。アイツは不幸の賜物だって微妙な顔して笑ってたけど、多分、コイツの場合は、笑って済まされる状況じゃない事を俺はよく知っている。
だってコイツは、テメェを殺そうとした奴を目の前にして、呑気に笑ってるような奴だからな。
俺と上条当麻という男は全く似ていない。
どこを探しても共通点なんか有りゃしねぇ。
髪も目も口も鼻も首も体も腕も手も足も服も靴も好きな教科も大事な奴も周りの環境も価値観も人間関係も能力もレベルも知識も金も口調や性格や趣味やセンスやテメェが送ってきた人生だって。
何もかも、俺達は似ていない。
真逆。
俺達は常に反対の方向を向いている。
アイツが見ている物の一八〇度真反対のものを、きっと俺は見ている。
その関係はきっと相容れない。
その線はきっと混じり合わない。
時には交差する時もあるかもしれないが、きっとすぐまた真逆に元通りだ。
今はその、交差している時なのだろう。
だってコイツが笑っているから。相槌もしないし、目も向けない無愛想な俺に楽しそうに不幸で無様な話をしてくるから。
何故そんなに楽しそうなのだろうか。
俺達は性格さえも真逆だから真逆の事しか考えないのに。
お前の話に同調できずに悪態ばかりついて、馬鹿にしているというのに。
むしろ馬鹿にされている事にすら気づいていないのだろうか。
戦闘になると普段は胡乱げに半目になっている目をギラギラと燃やして、獣のように変化に目敏くなるくせに。
どうして普段はそんなに鈍いんだ。
どうしてそんなに楽しそうに話すんだ。
さっきまで温かかった筈の、手の中の缶コーヒーが冷めていた。軽く持ち上げて重さを確かめてみると、もう残り僅からしい。
この男に奢って貰った缶コーヒーの礼にと、今まで長くてくだらない話を聞いていた。
風も強くなってきた。頬に冷気が当たって、最早冷たいというより痛い。
この缶コーヒーを飲み干せば、もうコイツの話を聞く理由は無くなる。
そんな事を思いながら未だにベラベラと話を続けている奴に目を向けた。
「――んでさ、その後で御坂の奴が……」
と今までぶーたれたような表情で愚痴っていた奴が、こちらの視線に気付いたのか今日一番の変な顔をした。きょとんとしたような、驚いて呆気にとられているような、まるで世にも珍しい姿をした珍獣を見たような顔だ。
「……なンだその面は」
そう声を掛けると、はっ、と何かに気付いた様子で、慌てて取り繕った笑みを浮かべた。
「悪ぃ悪ぃ、結構長く話し込んじまったな。もう寒いし帰んねーとな」
その焦っているような、落ち込んでいるような情けない顔があまりにも不細工だったものだから。
「別にィ……俺は腹が減ったからファミレス行くけどよォ」
きょとん、とまた再び珍獣を見るような目だ。
「えっと……それ、俺も行っていいのか?」
怖々と、でもどこか期待の篭ったような声色で奴が言った。だから俺はこう答えるしかなかった。
「……勝手にしろォ」
奴は喜々として立ち上がり、まだ飲み終わっていない、と渋る俺を寒いから、という理由で無理やり立ち上がらせた。
変な奴だ。
俺にはアイツの心情がこれっぽっちも読めやしない。
何故アイツはあんなに楽しそうなのだろうか。
何故アイツはあんなに嬉しそうなのだろうか。
俺とアイツは全く似ていないから俺には分からない。
何より一番分からないのが、そんな奴の隣でくだらない話をただ聞いてるのがそう不快ではない事だ。
いや、むしろ――
***
いつの間にか冷めていた筈の缶コーヒーがまた熱を持ち始めた。