X'mas

□この先も、きっと
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『あぁ?クリスマス?』


涼介とベッドの中でピロートークをしていて間近に迫ったクリスマスの話題になった
出会ったのは随分前だが恋人関係になったのは今年の春、つまりは初めての記念すべきクリスマスになるはずだった

   ・・・
そう、だった


『何言ってんだ、毎年クリスマスの予定はキャンセルしてきたろ』

「そ、りゃあ…そうだが」

『わかってるなら聞くな、24・25以外なら空いてるからそれで我慢しろ』

「…もう今年はクリスマスしか空いてねぇ」

『なら諦めろ、この先のクリスマスもな』

「っ!!」


トレードマークのサングラスの下の瞳が大きく開く
怒りでなく、驚愕でなく、絶望から涙が溢れそうだ
夢や幻想、妄想の類であろうはずもない恋人という関係性、それらを全否定されたような気がして「そうかよ」と返すのがやっと
ドフラミンゴは涼介に背を向けて涙と嗚咽を耐えるだけだった






―――――――






「………はぁ」


何度溜め息をついたのか数えるのが馬鹿らしくなるがそれでも溜め息が止まることはない
ドフラミンゴは目の前の箱を何の気なしにつついた
言わずもがな、恋人へのプレゼントの入った箱だ
一切妥協せず、何日も前から悩み、幾つもの品の中から厳選に厳選を重ねた、喜ばれるか不安で仕方ないがきっと喜ばれるはずだと願いを込めたプレゼント
あまり感情を表さないあの顔が綻ぶ姿を見たいがためのものだったのに渡すことすら叶わない
なんとも儘ならず歯がゆいことだ


「ったくよぉ…クリスマスだぞ?しかも初めての…アイツから告白してきたくせによォ」


そう、涼介の淡白な物言いとドフラミンゴの胸の内だけで評価してしまえば思いの丈はドフラミンゴの方が大きいように見えるがそうではない

『お前が好きだ、俺の傍に居て欲しい』

ストレートでありきたりな告白だった
だからこそ、日々賛辞や世辞な言葉を聞き飽きていたドフラミンゴにとって酷く胸を打たれたのだ


「あー…いま、何時だ」


スマホのディスプレイを見れば22:37の表示、もうすぐクリスマスが来てしまう
なのに、傍に居てほしい相手はここにはいない
遣る瀬無さにスマホを寝そべっていたベッドへ叩き付けた
その瞬間鳴り響く涼介のみ設定している着信音
急いで通話表示をスワイプした


「涼介!」

《あぁ、いま家にいるか》

「いるがどうした、なにかあったか」

《大有りだ、詳しいことは…》



ピンポーン



《そこで話す》

「…はぁ?」


社長という立場と手にかけている仕事の質ゆえに何かと物騒なことに合いやすいドフラミンゴ
セキュリティレベルの高いマンションの警備もシステムも超高性能
もちろん、インターホンについている画面の画質も申し分ない
高画質ゆえにその姿はハッキリと恋人を映していた


「な、あ、明日は仕事だって…」

《中で話す ピッ》

「あぁ!?おい…なんなんだ!!」


今度はベッドに向かってスマホをブン投げた
肩は怒り、それゆえに呼吸も乱れている
眉間の皺も大変深く刻まれていてまさに鬼の形相そのものだ
その表情を戻すつもりは無くそのまま涼介を出迎えた


『…酷ぇツラだな』

「誰のせいだと思ってんだ?」

『俺』

「わかってんなら聞くな」

『はぁ…それで昨日の意趣返しのつもりか?』

「っテメェに!そんなこと言われる覚えはねぇ!!」

『事実だろ、まぁ…こうなるとは思ってた』

「あぁ?」


無表情の中に陰りを見たドフラミンゴは眉間の皺が少なくなり、怒りではなく怪訝の色が浮かぶ
その様子に気付いているのかいないのか涼介は早口に言葉を連ねる


『この時期に忙しくなるのは取引相手が多大な注文やら何やらを押し付けてくるからで、まぁ毎回それに成功してるからこうやって毎年似たような注文と新しい試みとか試運転も兼ねて少なからず注文の量が増えていく』

「何が言いてぇ」

『…はぁ、要するにその会社と取引さえなければ今年もこんな不毛な言い合いすることもないし来年もその先もずっとクリスマスの予定ががら空きになるってことだ』


ガシガシと頭を掻きながら吐き出すように言うとドフラミンゴの腕を引きそのまま強く抱きしめた


「っは、なせ!」

『…悪かった』

「今更なんだ!!お前はどうでもよかったんだろ!?クリスマスなんて、そんなもんに固執するおれのことだって面倒だと思って…っ」

『んなこと思ってねぇよ!』

「嘘吐け!!」

『本当だ!あの日言ったろ!お前が好きだ、俺の傍に居てほしいって!!こんな特別な日にお前と居たくねぇわけねぇだろうが!!』


ドフラミンゴは目を剥いた、それはもう目一杯
自分を想ってくれていた、この日を特別だと思っていてくれた、あの日の言葉は嘘じゃなかった


「…っの、馬鹿が!」

『あぁ、悪い』

「アホ!!」

『あぁ』

「ふ、く…っかやろ」


ドフラミンゴは涼介の胸を叩く、その力は徐々に弱くなっていき最終的には縋るようにコートを握り締め胸に顔を埋めた
涼介は優しくドフラミンゴの髪を梳き縋り泣くその身体を抱きしめなおす


『今年から、クリスマスも一緒に過ごせる』

「ずっ…ほ、んと、か」

『あぁ、今回の会議でその会社を吸収合併することに決まった、会社が同じなら別に面倒な注文のやり取りをしなくても上手く段取りが組める、そうなりゃ専門部の奴等に丸投げしてトンズラこくのも容易い』

「フ、フッフッフッ、悪い社長だ」

『極悪社長に言われたかねぇよ』

「フッフ、それもそうか…」

『ドフラミンゴ』

「あ?」


あやすように髪を梳いていた手がドフラミンゴの顎を掬う
かち合う瞳を見ずとも、その先に何が起こるかなんて考えるまでも無い
涼介の首に腕を回し、それを促した





―――――――





『お、12時過ぎたな』

「そうか」

『メリークリスマス』

「フッフッフッ!メリークリスマス」


カチンッと子気味いい音を立ててシャンパンで満ちたグラスを当てた
一口飲んだところで涼介が鞄を漁り始める


『ドフラミンゴ、これ』

「ん?」

『クリスマスプレゼントだ、後れても渡すつもりではいたからな』

「あ、あぁ、そうか…おれもある」


受け取ったプレゼントを一端テーブルに置いて早足で自室に戻り箱を持って戻る


「フッフッフッ、受け取れ」

『言われなくても…開けていいか?』

「あぁ」

『じゃあ遠慮なく』

「おれもいいか?」

『勿論』


二人とも器用に包装を解いて箱を開けた


『へぇ、時計か…いいデザインだな』

「お前のはシャツとネクタイか…良く覚えてたな」

『ん?』

「このブランド、一度連れて行っただけだったはずなんだがなァ?」

『あぁ、その店に居る時間が他の店に比べて長かったからな、多分気に入ってるんだと思って』

「フフ、フッフッフッフッ!!愛だなァ?」

『お前こそ、時計贈る意味知ってて寄越したんだろ?』

「シャツとネクタイも同じだろうが」

『ふ、まぁな』


時計を贈るのは「あなたの時間を束縛したい」
衣類を贈るのは「その服を着たあなたを脱がせたい」


「フッフッフッ…わかってんなら話は早ぇ」

『そういうことだな』


似たような笑みを浮かべあい、2人の唇が重なる
クリスマス終了まで2人はひと時も離れなかった
それはきっと、この先も…



END
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