ハロウィン企画2015

□どちらがお好み?
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ロー視点・トリップ主人公



「おい涼介」

『すまん、俺のせいだ』


謝罪の言葉だってのに声に反省の色が一切見えない恋人をじろりと睨む
それでも涼介はどこ吹く風、やれやれと溜め息をついている
溜め息をつきたいのはおれの方だ、なにが楽しくてこんな…


「あ!キャプテーン!見て見て〜おれ魔法使いだよ〜!」

「あぁ、似合ってるぞベポ」

「わぁい!あのね、シャチが狼男でペンギンは包帯男なんだよ!ほかにもフランケンシュタインとか、ゾンビとか、ドラキュラもいるんだよ!」

「そうか…」


こんな、訳のわからねぇイベントなんか…


事の始まりは涼介が溢した一言だった
不寝番をしていた涼介が起きてきてたまたま食事の時間が被った、一緒に食事を取って少しの談笑、甘い雰囲気なんか微塵もなかったがおれは何とか会話を引き伸ばして何故か日付の話に…

………あ?もしかして悪いのはおれか?


『まさかこんなことになるとは…アイツ等の好奇心旺盛さをナメてた』

「…まぁ、異世界の話なら尚更だな」

『未だに信じてくれてる事実が信じられねぇよ』


涼介は異世界人だ、何でも仕事帰りに別れた女に刺されて死んだと認識した瞬間、この珍妙奇天烈奇奇怪怪摩訶不思議を全て詰め込んだ海、グランドラインに落ちたらしい
初めは信じられなかったがコイツの話を聞き、会話をし、涼介自身を知れば知る程それが嘘であると思えなくなっていた
今じゃこの船の人間は誰一人異世界を疑う者はおらず、ベポに至っては自分もいつか異世界へ行き涼介の世界を見てみたいと言い出す始末だ


「まだそんなこと言ってやがるのか」

『一番初めに俺を疑って斬り付けたのはどこのどいつだ』

「さぁ、どいつだったかな、ここへ連れて来いおれが切り刻んでやる」

『…はぁ』

「溜め息吐きたいのはおれの方なんだがな」

『悪かったって言ってるだろ』

「態度が謝ってねぇんだよ」

『どうしたら機嫌直してくれんだよ、小悪魔ちゃん?』

「バラすぞテメェ!!」


顎を掬い取られて心臓が跳ねる、それでもおれは照れと怒りを綯い交ぜにしてその手を払い除けた
小悪魔?悪魔そのものだろうが!
おれがこんなアホらしい格好をする羽目になったこのイベントの名、こちらにはない異世界のイベント


『ハロウィンらしくていいじゃねぇか、似合ってるし』


ハロウィンというらしいこのイベントは涼介の世界ではガキが仮装して家を渡り歩き呪文を唱えて菓子を強請るものらしい
本来は魔除けだとかなんだとか言っていやがったが他のクルーはさわりだけを聞いてこのイベントを決行しやがった


「じゃあ何でお前は神父の格好なんだ、一人まともな格好しやがって…」

『元々は魔除けの行事だといったろうが、家を渡り歩いた後は教会にゴールするって決まりがあるんだよ』

「仮装じゃねぇだろうが」

『仮装っつーか最早コスプレの域だな』


そういって伊達メガネの端を持つ涼介は黙ってればその姿のまま聖職者にしか見えない
もともとが一般人で平和な国で過ごしていたらしい涼介は雰囲気柔らかく体格良くとも大工などの土木系職人がいいところだ
実際今まで人を殴ったこともほとんどないらしい
それがいまじゃ癪の長い銃を構え正確に相手の命を打ち抜き、弾が切れればダガー一本で敵の喉を掻き切るのだから驚きだ


「はぁ、まぁやっちまたものは仕方ねぇ…馬鹿やり過ぎなきゃ好きにさせる」

『とか言いつつお前も何気に楽しんでるだろ』

「あぁ?」

『じゃなきゃそんな格好しねぇだろ』


おれの格好は悪魔、ぴったりとした革パンにボンテージ、尾骶骨のあたりに悪魔の尻尾、肩甲骨には悪魔の羽根、エナメルピンヒールのロングブーツ、極めつけは天を指す角と来たもんだ
一体誰がいつの間に用意したのかサイズぴったり、しかも異様にクオリティが高い
くそ、ベポにおねだりされなきゃ誰がこんな…


『よくできてんなぁ』

「呆れるくらいな、そういうお前だって立派に着こなしてるじゃねぇか」

『元が良いからな』

「自分で言うな」


黒い修道服、銀のロザリオ、聖書片手に微笑めばそこにはまさに聖職者
地味な服装であるにもかかわらず涼介の魅力は衰えるどころかメガネ効果で知的度も上がったように見える


『で、小悪魔ちゃんは言わねぇのか?』

「あ?…あぁ、Trick or Treatだったか?」

『それ、ベポなんかもう5回俺の所にたかりに来たぜ?』

「…悪戯されたのか?」

『誰がそう簡単にさせてやるか、これで追い払ってんだよ』


これ、と見せられたのは色とりどりの飴とチョコレート、一枚ずつ包装された小さなクッキーだった
これをずっと持ち歩いてるのか


『お前も一応持っておいた方が良い、命知らずな馬鹿がいるかもしれないからな』

「いたのか」

『イルカとシャチだ、激辛タタババスコキャンディ2回やってようやく諦めた』

「お前、聖職者のくせして悪魔の諸行働くのか」

『見た目だけな、俺は海賊だ』

「…ふ、そうだな」

『つーわけで分けてやるから持って置け、さっき酒のビンを持ってる連中を見かけた、そうなりゃもう見境無しだろ』

「はぁ…」


明日は片づけで一日が終わるな、と船内の装飾を見た
壁にはかぼちゃやコウモリの形に切られた色紙、誕生会の飾り付けで見かける色紙で作られた鎖、クラッカーでも鳴らしたのか紙屑が床に散乱していた
色々行事混ざりすぎじゃねぇか?


『で?』

「?」

『…ニッブいなぁお前』

「あぁ?」

『はあー…もういいわ、ちょっと来い』

「っお、い…なんだ!?」


呆れ顔に苛立ったのは一瞬で、睨んでやろうと涼介を見上げた瞬間肩を抱かれて食堂から連れ出される
苛立ち混じるものじゃなく、暴力的でもなく、ただ急かすだけの涼介の手にまた心臓が跳ねた




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