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□海中サプライズ
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主人公視点



時間を忘れてあのまま幻想的な空間に包まれ幸せを噛み締めていたかったが、現実問題それは無理だ
ローは船長だ、船長がいなければ海賊団は機能せず夢を追い求める道が絶たれてしまう
それは絶対にしてはいけない
ローのこれからのためにも…


正直言えば、戻りたくなかった


まさか、ローが俺と同じ気持ちでいたなんて夢に見ただけで現実でどうこうなるなんて思ってなかったんだから
まさか俺のイカレタ脳味噌が夢か幻を見せているのではと思ったくらいだ
それほどまでに、俺はローを愛しているらしい
紙とインクの向こうの人間に恋している時点で相当狂っているとは思ってたが、まさかこんな魚と獣の中間生物の姿でそれが叶うなんて誰も思いやしない


「まさか、海王類が本当に人間の言葉を理解して、あまつさえ人間の言葉を話すなんてな」


楽しそうな声のローはまだどこかふわふわしている気がする
…まさか、俺の唾液に特殊な成分が含まれていた、なんてオチじゃないよな?
エロ同人みたいに媚薬成分とか含まれてないよな?
そんな特殊設定要らない寧ろお湯かけたら人間になる2/1的な特殊設定寄越せ


「なぁ、もう一回呼べよ」

『ル、ヴォ…ロ゛ー』

「もう一回」

『ロ゛ーォオ』

「く、くくく…」


よほど俺に名を呼ばれるのが嬉しいのか楽しそうなロー
何度も練習した甲斐があった、何度も舌噛んで流血沙汰になって隠すの大変だったがそれもまぁ瑣末なことだ
愛があれば何でもできる、多分

…なんでも、じゃないか、人間になれてないし


「ジープ、船員の前じゃ名前を呼ぶな…また次、正真正銘デートのときに呼べ、いいな?」

『グゥウ(わかった)』


何だそれ独占欲ってヤツかなんだこの可愛い生き物、俺の恋人だクソ可愛い
とりあえず次の正真正銘のデーとなるものがいつ来るかなんてわからない
今のうちに呼んでおこうと、若干痺れを感じる舌を不器用に動かし名を呼んだ


愛してるは伝わったが、要練習だな


今度はもっと綺麗にその名を呼んで、心の底から愛を伝えたい
また舌が血だらけになるだろうが構わない


愛の言葉の数だけ増える傷なら、いくらでも…

そう思った矢先に舌を噛んで大流血を起こしローに心配されしばらく練習禁止令を食らった俺はとんでもない馬鹿だ
そして、禁止令を破ってまで愛の言葉の練習を続ける俺は、きっとどうしようもないくらいの大馬鹿なんだろう

















ロー視点


(『ァイ”、ゥ…エ、ル』)


酷く歪な言葉が、くすぐったい

“あいしてる”というその言葉は、おれにとって大きな意味がある


コラさんがくれた、大切な言葉


あの日と、今日、全く違う意味の言葉
ただの言葉が、かけがえのないものになった日
今日の日付をしっかりと航海日誌に記しておこう、来年はまた同じようにどこか洞窟へ行こう、勿論海底の洞窟だ、今日のようにあんな幻想的でなくても良い、似たような場所なら、ジープ1と一緒ならどこでも…
普通ならありえない異種間恋愛が確立されて浮き足立ってるのが自分でもわかる
叶うはずのなかった心の疎通、しかもキスまでできた
現実問題叶ったのはそれだけ
この先の物理的距離も何も解決しては居ないが、それでもいいと思った

今だけなら、こんな風に考えてたっていいだろう?


「なぁ、ジープ」

『ヴ?』

「やっぱり、何とか人間になる方法を探そう」

『ウ、ヴゥ…』

「そんな風に鳴くなよ、別に悪魔の実を食わそうとは思ってねぇ、デートできなくなるじゃねぇか」


海の中をデートするなんて早々できるもんじゃねぇしな、と続けてもジープは納得していないような声で鳴く
行きの道程で言ったことを反芻でもしてるんだろう、あんな危ねぇことはしない


「魔術でも、秘薬でも、何でも良い…ここはグランドラインだ、人が夢見たものが伝説となってどこにでも転がってる、どこかに動物を人間にできる方法も、きっとある」


確信も確証もない、ただの夢物語
それでも、きっとある


「ワンピースなんて夢物語だって実在する、だから、きっと何かある」

『ロ゛ーォ…』

「おれ達が必ず見つける、そしたらどこでも一緒に行ける、着いてくるだろ?」

『ヴ!』


当然だ、と、言われた気がした
きっと、そう言ったに違いない


「今日は流星群とまではいかねぇがそれなりの数の星が降るらしい、2人で祈ってみようぜ」


まず、第一歩だ
お前とおれの、2人の夢への…―――







おまけ・第三者視点



「…」

『…』

「ジープ、だな」

『あぁ、俺、だな』

「まさか」

『…多分』

「『昨日の星か…』」


今朝、甲板に一人の男が振ってきた
いきなりジープが吼えて、見張りのおれは驚いて配伝管で異常事態警報を発令、数分しないうちに続々とクルーが集まりその中には上機嫌で帰ってきた船長もいた
今まで戦闘時以外にこんな猛り狂ったような咆哮を発することのない温厚なジープに誰もが焦る
何とか宥めようと最終手段の麻酔銃を構えた瞬間だった
ピタリ、と咆哮も、辺りの波音までもが途絶え、船に向かってジープの身体が傾いた
船長が能力を発動するも間に合わず、船が沈むと誰もが思った

が、

おれは見た、ジープの身体が縮むのを
人並みの大きさになって、人の形になるところまでしっかりと
おれの頭がおかしくなた訳でもなく、それが全員の見た現実だった


「おい、誰か服を持って来い、ジープが風邪引いちまう」

「っあ、あ、おれ、取ってきます!!」


忠犬よろしく船長の声に反応したシャチは倉庫へひとっ走り、ついでにタオルを持ってくる辺り日々の調教が功を奏していると言っていいだろう


「どうぞ!」

『悪いな』

「早く着ろ」

『あぁ』


元が海王類のジープが服なんて着ているはずもなく全裸だ、同じモノがついているおれでも見惚れるくらいの肉体美だ、確かに早く服を着てもらわないと目がどこにもやれない


『ふぅ…』

「ジープ、何故急に人間になった」

『…あー、多分、これだ』


見せられたのは甲板に転がっていたポットだ
そういえばさっきクルーの誰かがその辺で喧嘩して物の投げ合いをしてたことを思い出す


『背中に熱湯がかかって、そしたら全身がぞわぞわして…どうしようもなくてとにかく吼えまくってたら、こうなった』


…おれ、なんかそれに似た話の本持ってる
言っていいのかな、と一瞬迷ったが…やめた


「ジープ、とりあえず部屋に来い」

「え、せんちょ」

「おれとジープは部屋に篭る…誰も、近づくな」


全員が目を丸くする仲、船長はジープの腕を引いていった
その顔が酷く興奮していること、そして、これまでにないくらい歓喜しているとわかり、誰一人、KY男のシャチでさえ、船長室へは行かなかった

なんとなく、察しました
なにをって…ナニを



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