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□君は君
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『効果は半日か、長ぇな…』

「いいじゃねぇか、可愛くて」

『いいわけ有るか。戦闘になったらどうする』

「あいつ等は弱くねぇ、大丈夫だ」

『そうじゃねぇよアホ』

「アホとはなんだ」

『そっちこそ可愛いとはなんだ、俺は昔からイケメンとしか言われたことがねぇんだぞ』

「…」

『そこでむっとするな、昔って言ってるだろうが。そうじゃなくて、お前の背中を他のやつ等に任せたくねぇんだよ』

「(ピクッ)」

『お前は俺が守る』

「(ピクピクッ)」

『俺の全てをお前に預けてるんだ、だったら俺だってお前の全てを守る』

「…っジープ」

『恋人の一人も守れねぇ男になる気はねぇぞ』

「〜〜〜〜〜〜〜っ!!」

『っぐぇ!!』




ローは感極まってジープの身体を潰さんばかりに抱きしめる





『ろ、ろぉ…苦し、つぶ、れ…』

「!?わ、悪ぃ!!…うれしく、て」

『げほっ!…落ち込まなくて良い、ウザがられなかっただけマシだ』

「ウザイなんて思うわけねぇだろ!!」

『そうか、よしよし』

「へへっ!」





子供に子供のように頭を撫でられるというのは自尊心…プライドがズタズタになる行為である

しかし、ローにとって恋人はその限りで無いらしい

喜びを全面に現し、その小さな手に擦り寄っていた





「ラブラブしてるとこ悪いな、飯出来たぜ!」

『おぅ、サンキュー』

「ジープ、おれが食わせてやる」

『え』




手に取ろうとしたスプーンを取られ目を丸くするも、自分のおにぎりを端に追いやりオムライスを一口大にし始めたローを止める術をジープは持っていない

素直に口をあけるしかないようだ





「あーん」

『………あ』





まさかこの年になって、病人でもないのに、こんなテンプレをされるとは…





様々なことを胸中でリピートさせながら小さく口を開く




「やっぱり、可愛いじゃねぇか」

『(嬉しくねぇ)んー』

「美味いか?」

『(お前が作ったわけじゃねぇだろ)んー』

「あ、口の端にケチャップ付いてるぞ」

『(付けたのお前だから)ん』




咀嚼しながら顔をローに突き出せば待っていましたといわんばかりにナプキンで口を拭かれるジープ

もう全てを諦めてローの成すがままになろうと決めたらしい

おとなしく掬われた2口目を、今度は大きく口を開いて受け入れた




『ローも食えよ、冷めるぞ』

「良いんだ、お前が食い終わったらおれも食う」

『コックに悪い。…っと、ほら、口開けろ』

「えっ」




ジープは少し遠くにあったおにぎりを引き寄せ、ローの口元に運ぶ

まさか“あーん返し”されるとは夢に見てもこの時は思いもしなかったローは目を見開き、反射で口を開き一口分齧った




『な、あったけぇ方が美味ぇだろ?』

「っ!」





こくこくと何度も頷くローはまるでアカベコのよう

顔を赤くしているので尚そう見える

船員たちは新たな癒しの光景に心を和ませた




しかし、そんな朗らかな光景は一変し、すぐさまいつもの卑猥な光景に戻る




『おい、付いてるぞ』

「ん」

『はいはい』





ジープはいつものごとく、毎食時に行われる行為

ローの口元に付いた食べかすを“舐め”とった




『毎度思うがわざとじゃねぇのか?』

「ち、ちがっ」

『違うのか?…残念』




小さな唇は怪しく弧を描き、ローの口に当てられる

ジープの中身が大人だと知らぬものには和やかなそれに見えるだろうが、ここにはそれを知らぬものなど居はしない



「っジープ!!」

『こうされたくてやってるのかと思った』

「んっ」




今度は唇を耳に寄せ、いつものように低くは無いが、それでもどこか色気を孕む声で囁き、ローの耳を軽く食んだ

途端溶けるローの瞳





(ああああああ、なんであの穏やかな雰囲気からこうも変わるかなあの淫猥バカップルはっ!!)





船員は全力で眼を背けた

見ていられない、見たら負けだ、見たら何かが崩れる

暗示をかけるものまで出始めるので始末に終えない



そんな船員たちなど、やはりこの2人の視界には入らない




否、船員たちはその目に触れられることすら拒絶してしまっているだけなのだが…





「ジープ…」

『ロー、部屋…行くか?』

「ぃく…」

『そうか。…シャチ』

「またおれぇ!?」





まさかこのタイミングで己の名を呼ばれるなどと思いもしないシャチとその他船員

もうこれ以上の仕打ちは勘弁して欲しい、その一身で懇願めいた目をジープに向ける





『あの薬、寄越せ』

「…………へ?」

『寄・越・せ』

「ははっはははひぃいいぃ!!!」




ポケットにしまったままだった薬を恭しくジープへ差し出す

にっこりと笑みを浮かべて薬を受け取ったジープは溶けきった表情のローに抱かれて食堂を出て行った




「な、なんだったんだ?」

「………まさか、ジープのやつ」

「え、えぇ!?まさか!?」

「せ、船長に使う気じゃ…」

「う」





全「うわああああああああ!!!!おれたち犯罪者だけど性的犯罪はアウトーーーーーーーーー!!!!」

















――――――――






「ん?食堂の方が騒がしいな」




ローの部屋への道すがら、廊下でピタリと立ち止まった





『またシャチが何かやってるんだろ、気にするこたねぇさ』

「それもそうか」

『そうそう…そんなことより』




ジープは婀娜っぽく微笑み、ローの首筋に吸い付く




「っん…な、に」

『俺の事気にしてくんなきゃ、拗ねちまうぜ?』




愛らしい子供の姿に見合わぬその色気は、ローの心臓に深く突き刺さった


しかし、やはり子供の姿ゆえか、ミスマッチなそれに笑いがこみ上げる




「ふふ、随分ガキっぽいな」

『何言ってんだ、俺は子供だろう?』

「中身は立派に大人じゃねぇか」

『あぁ、大人だな』

「我が儘なんてらしくねぇじゃねぇか」

『だから、俺は今ガキの姿だろ?だったら出来ることはしかねぇと勿体ねぇじゃねぇか』

「ふ、はははっ、随分とふてぶてしいガキだな」

『そんなところも可愛いだろ?』

「あぁ、最高だ」




じゃれあいながら進む廊下の先には、愛の巣が見えていた




おまけ→


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