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□特別なあなたに
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コック主とシャチのバレンタイン





「っう〜〜〜〜さっむ〜〜〜〜!!」





朝の見張り台にはシャチ一人

特徴的な鼻の頭と頬を赤くしながらマフラーに顔を埋めた

船は夏島から冬島へと航路を進んでいる

夏島でログを溜める期間が2週間と長かった

北の出身の身体も、急激な気候の変化にはまだついて行かないらしい




「はぁ…もっと厚着してくりゃよかった」

『本当にな』

「ぎゃあああああああ!!!!(ガンッ)っっっっい〜〜〜〜!!!!」





息を吐き出して視界が霞んだ瞬間、見張り台の下からぬっとジープが顔を覗かせた

驚いたシャチが背もたれにしていた柱に頭をぶつけ悶絶している前でジープはうるせぇとのんきに耳を塞いでいた




『何やってんだ、バァカ』

「おっま…お前が、い、いきなり出てくっからだろうがぁ!!」

『朝っぱらから元気だなぁお前。その勢いなら寒中水泳も出来んじゃねぇのか?逝けよ』

「字が違うし行かねぇよ!!ホントに何しに来たのお前!!」

『あ、忘れてた』



ツッコミ疲れて肩で息をするシャチにジープがけろりと突き出したのは湯気の立つマグカップ



「おっ!サンキュー!もー寒くて寒くて死ぬかと思ってたんだよ」

『チッ、放って置けばよかった』

「またそういう事言う!!お前俺のこと嫌いなのか!?」

『嫌いな奴に優しくするような人間に見えてんのかローに眼球抉り出してもらえよ厨二グラサン』

「そういう事言うから信じたくても信じらんねぇんだよこのツンデレ!!あとエグイ事言うな!!おれお前のそーゆーとこだけ嫌いだ!!」

『…あぁ、そうかよ。じゃあ、コレはいらねぇなぁ?』



逆の手に持っていたものを早朝の風に靡かせた




「わああああ!!好き好き好き!!そんなところも大好きだからそれ下さい!!」

『あー?聞こえねぇなぁ』

「クッソ!!ニヤニヤすんな!!マジで寒いから早く毛布!!毛布くれーー!!!!」

『くくくっ…ほらよ』



ジープは笑みを浮かべたままシャチの身体を包むように毛布を巻いた

ぎゅうっと身体を丸めたシャチは恨みがまし気に睨むがジープはどこ吹く風

手元のマグカップで暖を取るほうを優先した




「畜生、おれで遊びやがって」

『俺はお前のそういう扱いやすさと弄りやすい所が大好きだぜ?』

「おれはおもちゃかよ…」

『はは、否定も肯定もできねぇな』

「なんだそれ」

『まぁまぁ、とりあえずそれ飲めよ。飲み頃だ』



はぐらかされた感満載だが、とにかく今は暖がほしい、一端休戦しようとマグカップを傾けた



「!…これ」

『ホットチョコだ、お前甘いの好きだろ』

「好きだけど、なんで?」

『今日バレンタインだから』

「……あ」




出航してから海軍や海賊との戦闘が続きバタついていたのですっかり忘れていたシャチ

そもそも、ハートの海賊団には女の船員はいないので除外されるのが必須だ

それを、普段自分を弄り倒し、時に酒を飲み交わし、時に共に戦う仲間からそんなものが送られるなど考えることも出来なかった



しかも、




「………おれ、ころされる」

『あぁ?』

「せんちょう、に、こ、こ、ころ…」

『殺せんせ○?』

「メタ発言禁止!!冗談じゃなくて!!マジでおれ殺される!!」




ジープの恋人、ローの嫉妬深さは船員全員が知っている

何かと構われるシャチがその嫉妬によりバラされる回数は消して少なくはないし、その他船員も同様に一定の距離感を保てなければ以下同文だ



『あぁ、平気平気。アイツには特別仕様にしてあるから、フォローという名のご機嫌取りは任せとけ』

「お願いします!!」

『っくし!!…あー寒ぃ、俺戻るわ』

「あ、おぅ。サンキューな」

『朝食にバレンタインデザートも用意してるからあと2時間気張れよ』

「よっしゃ!!」

『あ、それともうひとつ』

「え?」




見張り台から降りようとしたジープはにやりと笑ってシャチの持つマグカップを指差した



『それも、ある意味特別だからな』

「は?見張りしてるからか?」

『違ぇよ単細胞』

「じゃあ何だよ」



いぶかしむ様な視線を向ければ



『何だかんだ、俺はお前と1番仲が良いと思ってるからな。友チョコって奴だ』



普段のような不敵な笑みではなく、片手で足りる程しか見たことのない朗らかな笑顔



『これからもよろしくな、シャチ』



じゃあな、とジープは見張り台からあっさりと姿を消した

残されたシャチといえば…



「…んだよ、それぇ」



顔を真っ赤に染めて、俯いていた

そして意を決したようにガバリと立ち上がりとうに甲板に足をつけたジープへ向かい、叫んだ




「当ったり前だ!このツンデレ野郎!!」




シャチの声を聞き届けたジープは振り返り、やはりその顔は笑っていた

…が、

ニヤリとした笑みはどんどん底意地の悪い、所謂ゲス顔に変わっていく

嫌な予感がしたシャチだったが、遅かった




『お返しは20倍返しだ、忘れんなよ?シャーチ♪』



あんぐりと口をあけるシャチを今度こそ放り、ジープは船内へと消えていった




「ち、ちくしょおおぉぉおおぉ!!!!おれの感動返せえぇえええぇぇ!!!!!!」




シャチの叫びは虚しく、波音に掻き消された




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