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□恋味キャンディ
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「こほっ」

『風邪か?』


小さな咳をしたローはいいやと首を振った


「空気が乾燥してるからな、そのせいだ」

『そうか、加湿機出して来るわ』

「頼む」


涼介はひらりと手を振って加湿機を出しにクローゼットへ向かいローはソファに座ったままリモコンを操作してテレビのチャンネルをコロコロ変えた
しかし特に興味を魅かれるような番組はやっておらずテレビを消してスマホをいじる
数分して加湿機が運ばれてきた


『ついでに湯沸かしてきたが何か飲むか?』

「コーヒー」

『あいよ』


加湿機の設置を終えて一歩踏み出したところで涼介が小さく声を漏らした


『ロー』

「あ?ぅんっ」


なんだ、と続けようとした半開きの唇にいつの間にか眼前にいた涼介の顔が迫っていた
驚く間もなく口内に涼介の舌が侵入して口を抉じ開けられる


「はふ、ぅ…んんっ」


そのまま深く舌が絡み合い粘着質な音がし始める
ローは何がなんだかわからない状態で深いキスに酔いしれていたが終わりの時が唐突に訪れた
そして気がついた


「ん、は…あまい」


涼介の味に混ざる濃厚な甘み
そしていつの間に口移されたのか固形物が痺れる舌に乗っていた


『蜂蜜のど飴、俺も乾燥しがちだから持ち歩いてんだ』

「普通に渡せ!普通に!!」

『ローは喉が乾燥しててそれをどうにかしたかった、俺ののど飴はそれがラストで口寂しくもなる、コレなら両方の願いが叶っていい思いも出来て一石二鳥だろ』

「ドヤ顔すんな!つーかそれお前がキスしたかっただけの言い訳だろ!!」

『大正解、よくわかったな』

「〜〜〜〜〜っ早く、コーヒー!」

『へーい』


まさか当てずっぽうの考えが当たってるとは思っていなかったローは素直に答えられて顔が真っ赤になり、バレバレなのもわかっていたがこの甘ったるい空気をどうにかしたくて口早に涼介をキッチンに追いやった


「あー…くそっ」


顔や耳どころか指の先まで真っ赤になったローはしたり顔をした涼介だけにでなく舌に乗るのど飴にすら忌々しさを感じひとつ悪態をつくが、カツンと歯の裏に当たる飴を噛み砕いて飲み込んでしまいたいのにそれも出来ない


「甘ぇんだよ…ばか」


先ほど悪戯に遊ばれた口内を締める蜂蜜の味と感触
それがたかが飴を噛み砕けない原因だ


『ロー、コーヒー』

「…」

『なぁに怒ってんだよ、そんなに嫌だったのか?』

「嫌じゃねぇからこうなってんだよ察しろこの鈍感野郎!!」

『あぁ、わかってて言ったしな』

「あ、あのなぁ!!」

『叫ぶともっと喉痛めるぞ』

「てめぇっ…ぁ、ふ…んぅ、んっ」


もう一度先ほどのように深くキスをされて言葉を飲み込む
しかしお遊びのようなそれではなく、何かを探るような舌の動き
カロン、と小さな音を立ててキスが終わる


『いらねぇみたいだ、返してもらった』

「だから普通に取り返せよ!」

『どーやって?』

「…と、とにかく、今度からはせめて一言寄越せ!!」

『キスさせろって?』

「〜〜〜〜〜そ、そうだ!」

『ふぅん…?』


にやり、というより、にたり
いかにも何か企んでいる顔をした涼介にヤバイとローの何かが警笛を鳴らす
言ったことを訂正しようとしたがそれより早く涼介が迫った


『キスしたい…さっきよりも、もっと凄いヤツ』

「な、ぁ」

『ローは舌甘噛みされるの好きだろ?俺もそれ好きなんだ、お前は全部美味いけど…コレだけは本当に特別なんだ』

「ばか、なに言って…」

『お前の薄い舌に軽く歯ぁ立てると妙に甘く感じてさ、ついやりすぎるんだよな。お前はお前で気持ち良さそうに目ぇトロンとするし』

「ば、こ、このばか!!もういい!言わなくていいやめろ!!」


全身真っ赤で最早茹蛸と良い勝負ができそうなローは完全に白旗を上げた
もともと勝利を確信していたのだろう涼介は笑みを深めてローの唇を奪う


『…口、開いて』

「ん…ぁ」


恥ずかしさから薄く開かれた唇を優しく割り開き、そろりと舌が口内に侵入する
粘膜を優しく舐め取る緩慢な動き、それが激化されることはなく涼介は舌を抜き取り唇に小さなキスを落として終わりを告げた
散々艶かしい妄想を書きたてられるような言葉を並べ立てたにもかかわらず生ぬるい温度を残すキス
ローは目を剥いて涼介を見つめた


『エッロい顔…なに、舌噛んで欲しかったか?』

「うるせぇ!!…っ」

『あと、それ返してやるよ。夜にもっと叫んでもらうから、な?』


可愛い声聞かせろよ、と告げて軽く奪われる唇、先ほどよりハッキリと残る舌の感触、そして少し小さくなった飴
完全に白旗を上げたローは結局飴を噛み砕くことも出来ず、ようやくできたのはその甘ったるい蜂蜜の味をコーヒーで霧散させることだけだった


END
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