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□ほわほわ、ぎゅう
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「おい、寝るぞ」
『んー』
読みかけのページにしおりを挟んでとっくにベッドに身体を横たえたローの隣に入り込んだ
3月に入って少しずつ暖かくなってきてはいるがやはり夜は冷える
こうして身を寄せ合って寝るのは下手に暖房を使うよりずっと効果がある、節約にもなって一石二鳥だ
…というのは建前で、ついこの間まで身を切る様な寒さの冬だったからこうして一緒に寝るのなんてざらだった
ただお互いに人肌が恋しい、絶対に言わないけれど
俺もお前も素直じゃないから
『うわ、ロー冷たいな』
「寒いんだから仕方ねぇだろ」
『じゃなきゃ一緒になんて寝てねぇだろうしな』
「…うるせぇ、さっさと寝ろ」
あ、いま一瞬だけど傷ついた顔したな
またやっちまった、こういう可愛い反応されるから控えるくらいしか出来ないんだよ
総じて魅力的な恋人が悪いと難癖つけられるくらいに惚れてるからこそ意地悪をする
…流石にこれ以上機嫌損なわせるのは不味いかなァ、なんて殊勝な考えが浮かんだ
ただでさえ酷い隈なのにそれがここ最近更に濃くなってきてるからだ
何でかといえば俺の所為
一緒に寝るようになってからは虐めるのが楽しすぎてちょいちょい言いすぎたりしてるから
可哀想だけど可愛いから上手くストッパーが働いてくれないと言い訳しておくが、正直あまり悪いとは思ってない
『なぁ』
「なんだ、おれはもう眠い」
眠いとか言いながら随分ハッキリした声で答えてくるな、とからかいたくなったが堪える
確かに虐めること自体が楽しいしそれにいちいち反応して傷ついた顔をするローも可愛くて好きだ
でも俺は腐っても恋人、傷つけてばかりは楽しくないしロー自身それを望まない…望まれても困るけど
『あったけぇなぁ』
「はぁ?」
『なんだよ?』
「お前がなんだ、さっきは冷たいって言ってたじゃねぇか」
『さっきはな』
俺の体温を容赦なく奪うローの身体はとっくに温まっていて、手足の指先はまだ少し冷たいものの大して気になりはしない
ローの強い希望で購入した超もふもふな毛布がその熱を更に上げてくれるし、洗濯して日干しをしたばかりだから柔軟剤の香りが心を穏やかにしてくれる
あと数日で終わるのが惜しいくらいのシチュエーションだ
多分、ローも同じことを思ってる
『んー』
「っ!な、く、くすぐってぇ!」
『んー』
ローの無防備な首筋に鼻先を埋めて、すん、と一呼吸
体臭とボディソープが合わさって甘い香りが俺の肺と悪戯心を満たした
意識と気分がほわほわと和らいでいく
もっともっとと強請る心とは真逆に緩慢に動く指先で均整の取れたローの身体を撫でた
「やめ、ろ…ぁ」
『ふはっ、可愛いな』
「ばかっ!も、やめろ!」
盛るなバカおれは明日早ぇんだよ寝かせろ!と身体を捩って抵抗を試みるローだが全く本気じゃないことなんてとっくに知っている
本当に嫌なら布団から蹴りだされているはずだからだ
ローだって細いがしっかりと良質な筋肉を纏った男だ、そのくらいの抵抗はできるし実際に体験したんだから間違いじゃない
『ヤらねぇから安心しとけ、触るだけだ』
「っそれをやめろって言ってんだろうが!」
『嫌か?』
ぐっと押し黙るローが可愛らしくてまた悪戯心がむくりと膨れ上がる
それを押し留め柔らかな笑みを浮かべて髪を撫でた
『じゃあ抱き締めるくらいならしていいか?』
「…べつに、嫌だとは言ってねぇ」
『でも気になって眠れないんだろ?』
お前も俺も素直じゃない
だったらそれを逆手に取ればいい
俺とローはよく似てる、だからこそ扱いやすい
『で、良いのか駄目なのかどっちだ?』
「っす…か、勝手にしろっ!」
あ、いま絶対好きにしろって言いそうになったな?
あーあ、あわよくば言葉の通り好きにするつもりだったが、そこまでバカじゃないか、残念
『じゃ、勝手にする』
「ふんっ」
つれなく鼻を鳴らしてはいるがさっきよりも身体が密着してるし足まで絡んでる、しかも腕じゃなく肩を枕代わりにしてら
素直じゃねぇなァ、と微笑ましく思いながら密着した身体をしっかりと抱き締めて目を瞑った
『おやすみ、ロー』
「…涼介」
『ん?』
ふちゅっ
『…んん?』
「さっさと寝ろ」
いや寝ろってお前…そんな耳まで真っ赤にして寝れんのか?
しかも異常なまでにローの体温が急上昇してる、これじゃ熱いだろ
『ふ…く、くくくっ』
「〜〜〜〜〜っ寝ろつってんだろ!」
『へいへい、おやすみ』
ローにされたように軽く唇を奪い反論できないようにきつく抱き締めなおす
癖の強い髪に鼻を埋めてもう一度香りを吸い込み先ほど感じたほわほわとした気持ちで眠りについた
その日見た夢はなんてことのない、現実と同じで素直じゃない俺とローが共に居るだけだった
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