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□残念も悪くない
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『あー…くそ、俺の嫁マジでツンデレ』

「は?」


唐突な言葉でテレビから視線を外せばスマホをいじっていたかと思えばいきなり床に懐きはじめた涼介に一瞬驚くもあぁまたかと思った


『なんだよこれ全然嫁に来ない何なの俺の嫁ちくしょう可愛いけどマジデレねぇ』

「またギャルゲか…」

『いや《育ててマリンズ》、ヤバイよこのゲーム全員俺の好みすぎて何から育てようかメチャ困るしレベル上げとかは楽だけど好感度上げてくのがその辺のギャルゲより難しいし個人イベントも無いから新密度アップも図れんし好感度アップアイテムなんてモン○ンみたいに素材集めからしなきゃならんしマジきっついお陰で今月のギガ数もうすぐ6越えワロリンヌwww』

「まだ月始だぞこのゲーヲタが」

『俺からゲーム取ったらお前しか残らないから大事なアイデンティティ持ってこうとしないでwww』

「死ね」

『死wなwぬw』


こいつはゲームを取ったら息が出来なくなるどころか即死するんじゃねぇかってくらいのゲームオタクだ
しかも口を開けばオタク用語が出ないことが無い
お陰でおれまで若干感化されて基本的なオタク用語くらいならわかるようになっちまった


「で?嫁ってのはあれか?長身黒髪のアイマスク野郎」

『クザンな。違う違う、クザンは殿堂入り果たしから』

「堂々と一夫多妻宣言してんじゃねぇ」

『まぁまぁ(笑)今の嫁は金髪赤眼の天使中佐だ』

「中佐?お前にしちゃ随分妥協したな、前は『大佐以上じゃなきゃ俺の嫁とは認めん』とかいってたろ」

『言ったなwwwぶっちゃけ顔とスペックで即オチしたわwww』

「ゲス野郎が」

『そのゲス野郎恋人にしてるのは誰よwww』

「うるせぇ」


そうだよそんなゲスでゲーヲタで他にも色々最悪な男を恋人にしてるのは他でもないおれだ
どこに惚れたかなんておれが知りたい
深い溜め息をついてテレビに視線を戻せば同じ落胆の溜め息が漏れる
あぁ、ついに諦めたか


『もぉー…俺の天使がツンデレ通り越してツンドラだよツンツンだよ馬鹿ぁ…』

「残念だったな」

『ホントになー…まぁいいよ、俺の本当の嫁は偶にデレてくれるツンデレ天使だから』

「っちょ…おい!」


横から抱き寄せられてどきりとする
なんで惚れてるかなんて全くわからないがこの胸の高鳴りは嘘でもなんでもない事実だ


『なぁ、オムライス食いたい』

「自分で作れ」

『訂正、ローの作ったオムライス食いたい』

「お前が作った方が美味いだろ」


オタクのくせしてIT企業の課長で稼ぎも良くそれゆえに自分のオタクワールドを築く為に一人暮らし、初めの頃こそカップ麺やジャンクフードを食っていたらしいが太ってコスプレが出来なくなるというなんとも馬鹿馬鹿しい理由からダイエットを始めると同時に自炊を始め料理系の漫画に嵌り自己流で修業を積み料理も完璧、部屋に犇くフィギュアやら何やらが汚れるのも嫌で少しでも埃を見つければ徹底的に掃除をしだす
原点はヲタクというなんとも残念なHSKだ

まぁ、何が言いたいかといえば簡単な話
おれは普通に世間一般並みの炊事洗濯の腕しかない
おれの味付けが好きだというが単なる怠慢なんじゃないかと常々思っている


『いいんだよー、ローが作るなら』

「…卵破けるぞ」

『手作り感が増して寧ろいい』

「……この間野菜が半生だったろ、それで腹壊したくせに」

『便秘気味だったから助かったけどな』

「………ケチャップでメッセージは書かねぇぞ」

『ちょっとマジですかマイハニー、心がズタズタだぜ』

「そのまま一生ズタズタのままでいいんだぜクソダーリン」

『俺の嫁が怖いけどそこも可愛くてイキツラー…あー、もういいわ、マジで腹減ったから自分で作る』

「え…」


おい、なんだ急に…いつもの小芝居じゃなかったのかよ


『ローも何か食う?』

「…オムライス食いたいんじゃなかったのか」

『ローのオムライス食いたい気分だから何か他のもの作る、何がいい?』


なんだよそれ、おれが悪いみたいじゃねぇか
何がいい?じゃねぇよ、袖捲くりするな


「…いい」

『ん?いらねぇの?』

「おれも腹減ったし、卵の賞味期限近いからな…オムライス作ってやる」


全部本当のことだ
おれだって本当に腹がすいてる、涼介がゲームをやめたら何か食おうと思ってた
卵も最近あんまり消費量が多くて買い足したのに結局使い切れてないから賞味期限もギリギリだ

…くそ、視線がうるせぇ
ツンデレのツの字でも言おうものなら絶対作ってやらねぇ


『…あ、じゃあ一緒に作らね?ローが中身作って俺がガワ作るから』

「言い方グロイぞ…」

『ケチャップ注意報発令でありマースwww』


あー…ったく、ほんっとにコイツは…


「お前、黙ってればイケメンなのにな…」

『ワォ!俺の嫁がデレたーツイートしなきゃだこれー!』

「そういう所を言ってんだこの馬鹿!!」

『だーからー、俺からヲタク要素取ったらローしか残んないからやめてってばよ』

「んなこと…ねぇだろ」


そんだけ何でも出来て、顔も良くて、性格に難ありだってそのくらいじゃおれ以外に何も残らないなんてありえないだろ


『んー、まぁ、ね…俺が悪いのはわかってるけどさぁ…もうちょっと自覚してくんない?』

「は?」

『確かにさぁ、俺って口開けばヲタク用語ばっかだし、ゲームしてる時間もなっがいし、それ以外は仕事ばっかだし、ローとの時間もあんまし取れないけどさ』


わかってやってたのか!!と胸倉を掴んでやろうと伸ばした手が届く前に掴まれる


『これでも色々削ってるんだよ』

「精神力とゲーム時間削ってるってのか!!」

『それもだけど!…その、理性、とか、さ』

「はぁ!?理性!?」


いきなり何言い出すんだコイツ!!


『あったり前だろ!?俺これでも結構モテるんだよこの顔で!!会社じゃオタクなところも一切だしてないから無駄にな!!お陰で廃人ゲーヲタでも現実と二次元で女にも男にも困ったことないわ!!そんな俺がだぜ!?現実で一人の人間にここまで嵌るなんて思ってなかったんだからなマジで!マジゲシュタルト崩壊半端ないぞ!?そこんとこちゃんとわかってる!?俺の愛情結構ハンパないよ!?本当なら俺自身がヤンデレ化してこの部屋に監禁してもいいくらいに思ってるからな!?見えないかもだけどメッチャ愛してるからな!?』

「ぇ、ちょ、ま…は、は?」


…涼介がここまで取り乱すの、初めて見た
いや、二次元関係なら何度も見てきたけど、おれ自身に向けてってのは…本当に初めてだ


『あー…なんか、ごめん』

「い、いや…」

『…今のは本心だから、その、覚えといてくれ』

「あ、あぁ、わかった…」

『んー………あー!もう!この話やめ!腹減った!ほら、早く作ろうぜ!そんで今日はもう俺もゲームやめる!!』

「…はぁ!?」


え、さっきから本当にどうした!?
コイツがゲームをやめる?今日だけ?いや、無理だろ、絶対禁断症状出るだろお前!!


『いいんだよ!その分デートしよう、な!』

「あ、あぁ!」


涼介の勢いが凄すぎてついコクリと頷いて顔を上げればとっくにその背中がキッチンに向かって歩いていた
仕事とゲームの邪魔だからと短く切られた髪から真っ赤な耳が覗いている

あー、クソッタレ!


「この、ザンメンが…」

『え!?なんで!?』


そういうイケメンじゃない、残念で、かっこ悪いところはおれだけに見せろよ!!



END
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