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□君は君
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「おいシャチ、これはどういうことだ?」

「あ、あのですね船長!これには深〜いワケがありまして…」

「言い訳は聞かねぇ…ROOM!」

「キャーーーーー!!」



甲板に響く悲鳴

目の前で行われるデスチェイス

それをいつものように耳を塞いでやり過ごすジープ




『おい、うるせぇよ』

「っジープ!体に痛みはねぇか?具合は?」

『ねぇよ。あえて言うならシャチの悲鳴で耳が痛ぇ』



いつもと違うのはジープが子供の姿であること




『ロー、シャチ吊り上げたら話を聞け』

「わかった、シャチ、気を楽にしろ」

「いやああぁぁぁああぁ!!ジープの鬼ーーーーー!!」

『黙れ、全ての現況はお前だ、自業自得。ロー、やっちまえ』

「あぁ」

「ひっ!い、いやーーーーーーー!!」




見事バラバラにされたシャチはパーツごとにマストへ宙吊りにされ、その下に船員が集っていた

勿論、中心は船長であるロー、そして、ジープ




「で、何でそんな姿になったんだ?」

『シャチが新世界産の怪しげな薬を無理やり飲ませようとした。んで、俺がそんなモン素直に飲んでやるわけもねぇだろ?』

「シャチ、あとで頭と爆弾をシャンブルズだ」

「いやあぁああぁぁ…」



最早悲鳴すら力なく、シャチは宙吊りのままうめく

それでもジープは話を続ける

シャチ、哀れなり



『で、あのド阿呆は無い頭を振り絞って様々な策を講じるもアイツよりは確実に頭の良い俺は何とか回避した』

「流石はジープだ」

『あぁ、うん、そこは突っ込み入れてくれて良いんだぞロー』

「?」

『…あぁ、まぁ、いいや。で、結局あのクソ馬鹿は俺のタバコのフィルターに薬を染み込ませるっつー腹立つくらい巧妙な策に出て、こうなったわけだ』




両手を広げるも、いつもの長い腕はとても短く、手の平も紅葉のようになりふくふくとした子供のそれ




全(…子供の姿だと可愛いな)





全船員、ローや宙吊りにされているシャチまでもが心をひとつにした





「ジープ…」

『ん?』

「抱っこしてもいいか?」

『…神妙な面して何を言い出すかと思えば』

「だめ、か?」



ジープの身長に見合うよう甲板に腰を下ろしたローは準備万端と言わんばかりに両手を広げた

その顔は先頭に向かうときのように真剣で、とてもミスマッチ

しかし、色好い顔をしないジープとシュン気を落とす

その顔に弱いことを知ってだったらよかったものの、ローはそれをナチュラルに発動するのだから質が悪い

だが、それをわかっていても恋人の落胆する姿は見てて気持ちのよい物ではない




『………ほら』




いつもの如く、天然おねだり攻撃に白旗を挙げたジープはローに向かって両手を広げる




「っジープ!」

『あー、はいはい』




体格はいつもの倍以上変わっているのに、何故こうも見ている景色が変わらないのか…

ローが、ジープを、抱きしめている





はず、なのだが…





(なんだかな、これじゃいつもと大して変わらん)





いや、体格からしていつもとかなりの違いが無くてはおかしいのだが…

ローの抱きしめ方に問題がある

普通、抱っこというのは相手を包むように抱きしめることをそう呼ぶはず

しかし…




「ふふ、ジープ柔らかいな」

『そりゃまぁ、今はガキの身体だからな』

「それにあったけぇ」

『あー…ロー、ご満悦っぽいときに悪いが、その体勢きつくねぇか?』

「全然」

『…あぁ、そう』




地べたに座っていても2m近いローと元は2m超えのジープは今1m有るか無いか

その身長差でジープの胸辺りに顔を埋めるというのは、如何せん無理な体勢であるというのは一目瞭然

どう考えても、無理をしている





『ロー、せめて抱きかかえてくれねぇか?見てるこっちが辛いぜ、その体勢』

「へへへ、優しいな」

『優しいとかそういう問題じゃねぇよ』




優しく髪を梳くジープは姿が変われど、他には何も変わらない

いつもの如く、ローを愛するただの男だった





―――――――





『あのな、ロー。確かに体勢を変えろとは言ったが、コレは、ちょっと…』

「いやか?」

『断じて嫌ではない。けど、いくらなんでも恥ずかしい』

「そうか?」




海が時化てきたので潜水しないまでも流石に船の中へ戻ることとなった

そして場所は食堂へ

そこで、ジープはローに文字通り子供のように抱きかかえられていた




「おれはこうされたら嬉しいぞ?」

『お前は、だろ。俺はいつもする側だから慣れん』

「でも嫌じゃないんだろ?」

『まぁ、な』

「だったらいいじゃねぇか。薬の効果が切れるまでそう長くねぇんだ、それまではこうさせろよ」

『あー、アイアイ、キャプテン』

「へへへっ」




心底嬉しそうにジープのぷにぷにほっぺに頬ずりするローは大変上機嫌

でなければ、シャチは今頃忘れられ、甲板で冷え切った風と飛沫に晒されていたことだろう

シャチは一人想像してしまい身震いしたことは隣に座っていたペンギンしか知らない




『あ、コック。腹減った、なんか軽食頼む』

「えっ!?あ、あぁ、おぅ。何が良い?」

『ローも食うか?』

「おにぎり、具は…ネギ卵と鮭」

『俺はオムライス』

全(言動はいつも通りなのに何でここまで可愛いのか)




いつものジープがオムライスを頼むさまは如何せん(船員のみは)異様だ

しかし、今は完全に子供の姿なので可愛さしかない

それを喜ばないローでもないのでオムライスという言葉を聞いた瞬間からジープから目を反らし頬を真っ赤に染めて身悶えていた




『頼むな』




ニッと笑みを浮かべるも、やはりいつものイケメンオーラといわれるものは放たれず、どれかといえばやんちゃで快活なイメージを与える

コックは「おうよ!」とつられたように笑みを返してから調理に入る




『おい、シャチ』

「はひぃ!?」




唐突に絶対零度の笑みにかわったジープに戦慄くシャチ

冷徹な笑みを崩さないままのジープは優しい声で死刑宣告を告げる





『ローからのお仕置きは終わったが、俺からはまだだからな?覚悟して置けよ?』

「……………………ぺんぎん」

「…なんだ」

「おれ、遺書書いてくる」

「待て!それはまだ早い!というか、流石のジープも仲間は殺さないだろう!」

「いや、しぬ。精神的にしぬ。から、いしょ…ぐす」

「待てって!!!!」




寸劇のような、けれど漫才のようなそれは一部の船員しか見ておらずローとジープはどこ吹く風

すでに2人の世界へと移転していた




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