MAIN2(短編)

□ヨシオ感情
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ヨシオはある日突然感情を人として出せるようになった。怒りよしお、悲しよしお、喜びよしお、楽しよしおだ。それから数日経って、痛みよしお、痒いよしお、悪よしお、善いよしお等々、人間としてのたくさんのものを人として出せるようになった。
ヨシオは、最初は家から出たくない時などによしおを使った。よしおはとても役に立った。それからヨシオはほとんどのよしおを使ったが、怒りよしおと悪よしおだけは使わなかった。犯罪だけはしたくなかったし、怒りはコントロールが難しかった。たくさんのよしおを出し、自分の中にその二つのよしおがいる時、ヨシオは鉄のオリに閉じ籠った。そうでもしないと不安だったのだ。
ヨシオはよしおを使う時、それぞれのよしおに超自我のヨシオよしおとしっかりな理性よしおを少しずつ容れていた。ヨシオよしおと理性よしおは、それぞれの感情を抑え、ちゃんと働かせる為に必要なのだ。そうしないと、少しのことで泣いたり、痛がったりして騒ぎ、コントロールが面倒になるのだ。
ヨシオはよしおを使ううち、大金持ちになった。たくさんのよしおを使って少しの時間のでいくつもの事業に成功し、裏でも表でも有名になった。そんなヨシオを殺そうと、何人もの殺し屋がヨシオを狙った。ヨシオはその度によしおを身代わりにして自分の死を避けた。一人、また一人とヨシオのよしおが消える度、ヨシオの人としての色々なものが消えていった。ヨシオの中には今や役立たずの痒いよしおと怒りよしおしかいなかった(悪よしおはいつのまにか消えていた)。
ヨシオはある日、喉元を蚊に刺された。痒くて痒くて堪らず掻きむしった。理性は少ししか残っていなかった。痒いよしおの感情のままに掻いた。どうしてこんなに痒いのかと怒り狂った。ヨしおは喉を掻きむしり、果てに掻き切った。ヨシオは、痛みも血の抜けていく指先から冷えていく感覚も、自分にかかる血の温かさも感じなかった。ただただ痒さに怒り、気道も食道もぶち切って死んだ。
次の日、よしおが世界中で目撃された。ヨシオのよしお達は人の形をとってはいるが、人間ではない。殺し屋に殺されても死ぬわけではないよしお達は消えるフリをしてヨシオから隠れていたのだ。よしお達は何度もヨシオの中から出されているうちに、個々としての意識が生まれていたのだ。だから、皆でヨシオを消す計画を立てた。結果、ヨシオは死に、よしお達は自由になった。死んだヨシオの遺体は食べよしおが食べ、血や少し飛び散った肉片などは整えよしおが綺麗に跡形もなく消した。
理性よしおはたくさんのよしおの中に溶け込んで分離を望まなかった。ヨシオよしおは他のたくさんのよしおに殺された。
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