■Optimus■

□【自殺志願者と正義のリーダー】
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寂しくて

悲しくて

つらくて


消えたくて

逃げたくて

死にたくて




店員にドル札を渡すと睡眠薬とロープをそのままバックにしまい店を出た



車を走らせ、目的地まで着くと路肩に停めてトランクから椅子を出し
立ち入り禁止の森の奥へと歩いていった



夕日のオレンジが木々の隙間から美波を照らす


椅子に上がり眩しそうに見上げながら太い枝にロープを巻いていく


そしてひとつの輪っかを作ると手にロープを取りゆっくり首に近づけていった

「これで幸せになれる…」

涙を流しながらそう呟いた


ズシン_

「!?」

何かの衝撃で地面が揺れ美波はバランスを崩し椅子から落ちる


「君はここで何をしているのだ。」

土地の所有者に見つかってしまったと慌てて振り向いても人間の目には合わず変わりに美波の目線はみるみる上に上がった


「え…!?」

何メートル先にあるかわからない、顔であろう部分に焦点を合わせる

「ここは立ち入り禁止のはずだが……どうやらラチェットの熱感知カメラが壊れたようだな。」

オプティマスはカメラの様子をサーチしたが一部だけ起動していないようだった


「私の事は外部には言わないで欲しい。この場所も。」

美波はアメリカ軍が隠しているオートボットだと気付いた


本物をこんな間近で見たのは初めてなので脚から顔までもう一度ゆっくり見上げた



「…わかった。」


軍の敷地内に侵入、しかも自殺はヤバいと急いで立ち上がる

「ところで君はここで何をしていたのだ?」

「…何もしてない。」

他人に自殺ですなんて言ったら笑われるだろう


ロボット相手に笑われたくはない


頬の涙、枝にかかったロープ、持ち込んだ椅子にオプティマスはわかった


「…命を絶とうとしたのか。」

何もしてないという言い訳はこの道具を見られておきながら、であった


「何故君はこんな選択をする。」

「…幸せになれるから。」

苦しい事から逃れられるなら幸せだ


「泣いてるのに幸せなのか。」

美波は黙った

無理に考え付けて死ぬ事は幸せなこととしていた


悔しいに決まってる

こんな状況に追い込まれて自殺を選ぶなど


不幸せだと知っている


「私は君に何があったのかはわからない…だが自ら命を絶つのは間違ってる。」

「私はそうは思わない。あってるとか、間違ってるとか私からしたらそんな事どうでもいい。…ただもう生きたくないだけ。」


美波は別の場所に変えようと椅子を持つ

「今の苦しさはいずれ糧になる。無駄にしてはいけない。」

オプティマスの言葉に少し腹が立った

何もわからない金属の固まりに自分の生死などあれこれ言われたくない

「人間はあなたみたいに強くない。すぐ死にたがる人も居るの。」

「だが、苦しさはいずれ自分の糧になる。無駄ではないと思う日がくる。」

「なら、あなたが私を助けてみてよ。無駄じゃなかったって思わせてよ。」


死んではいけないと言う人に問いたい

ならあなたが私をどうにか出来るのかと

何もしないくせに命を無駄にするなとか言わないで


私だって望んでるわけない


自分が幸せだからって他人に生きる事を強要させないで


「……わかった。私が君を助けよう。」


オプティマスの言葉に美波は顔をしかめる

安易にわかったなど口にするなと思った

「申し遅れた。私はオートボットの司令官、オプティマス・プライムだ。君の名は?」

「…美波。」






自 殺 志 願 者 と 正 義 の リ ー ダ ー






オプティマスが休みの日会うことになった美波

なぜオートボットと約束をしてるんだろうと思いつつ待ち合わせ場所に着く

しばらくしてファイアーパターンの派手なトラックが美波の前に停まる

「え…」

「私だ。乗れ。」

自動で開くドアに無人のトラックからオプティマスの声

乗り込み、運転席に座る

「周りから見たら絶対おかしいよ…」

このトラックに不釣り合いな自分が乗っていると周りの目線が気になる

「我慢してくれ。」

オプティマスは街を走った

「命を絶ちたい理由を聞いて良いか?」

しばらくしてオプティマスから話しかける

予想通りの質問だったが簡潔な答えは出せなかった

「いろいろ嫌になって…」

「そうか…。」

具体的に聞き出すのは良くないと思いオプティマスはこれ以上聞かなかった


「軍の人怒らない?一般市民と喋るなって。」
話題を切りかえこちらから質問をしてみる

「発言の許可は問題ない。ただ我々の存在は公には出来ない。」

もう一般市民の話題になってるけど、と心の内で突っ込みつつ窓の景色に目をうつす

「…あの森はオートボットのままで居られる所なの?」

「元々軍が買い取った場所だ。今はそうしている。監視カメラがあったはずなんだが…」

「ごめん。死ぬから関係ないやって思って。」

十数メートルおきについてるカメラが見えながら立ち入り禁止区域に入った美波

罰しようにも死んだら出来ないのでまぁいいかと考えていた

「美波は私を恐れていなかったな。私を怖いと思わないのか?」

「あんまり。それより軍の敷地内に入った事が私にとって問題だった。」


下手したら刑務所に入れられるかもしれない


そうなったら自殺どころではなくなる


軍の立ち入り禁止区域はそれほど厳しいのは知っている

「カメラに私映ってた?」


あの時カメラがどうのこうの言ってたのを思い出す

「ラチェットの熱感知カメラが壊れていたらしい。君は映っていない。」

「ラチェット…軍の人?」

「オートボットの軍医だ。」


軍医と言われて何となく白衣を着たロボットを思い浮かべた

そんなわけないとすぐに訂正したが


「オプティマスはオートボットの司令官?リーダーなんだっけ。」

「そうだ。」

「大変そうだね。」


皆をまとめたり誰かの上に立つ事は苦労も多そうだ


私には到底無理な立ち位置

「そうだな…だが、皆私を信頼して着いてきてくれている。


司令官としてやるべき事を果たさなければ。」


「……そっか。」

自分と違いすぎることに差を感じた


オプティマスは皆に必要とされて


信頼されてて


正義感があって


孤独で卑屈な自分とは違った


「どうした。」


様子が違うことに気付いたオプティマス


だが何でもない、と返事が返ってきたので美波の考えを知ることは出来なかった



ドライブが終わり美波の家に着く

「ありがとう。楽しかったよ。」

「今度から美波の携帯に連絡していいか?」

「あ…うん。」


次も会うつもりなんだと思いつつ携帯を取り出そうとする


「もうメールを入れた。」

「え?」


携帯を見るとアドレス表示なしで"オプティマス"の名前

<<今までの苦しい事は無駄ではない。>>

本文にはそう書かれてあった

「いつの間に…」


「携帯の電子回路を少しいじらせてもらった。これで美波からも返信が出来る。」

美波はへぇ、と感心する

「また近い内に連絡する。」


そう言ってトラックは去っていった


「ふん…何この言葉。綺麗事。…どうせめんどくさくなるよ。」

死にたがりの相手をすることはとても面倒な事だ

それにオートボットのリーダーが一般市民に構ってる暇があるわけない

部屋に入ると美波は自殺できそうな場所をネットで探した
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