TF―長編。Sideswipe

□【隠された痛み】
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すっかり疲れて寝てしまった優実の髪をそっと撫でる

「ん…」

気持ち良さそうに寝返りをうつので掛けていた自分のパーカーが体から落ちそうになる

「ったく」
掛けなおしてやろうと、少しパーカーを浮かせた
その時に背中の黒い何かがわずかにチラリと見えた


「何だ…?」

バレないように綺麗な背中を覗いた

「タトゥー…?」

意外だ

優実がタトゥーを彫ってるなんて気づかなかった
背中に当る下着のラインに隠れるように横に小さい文字が書かれてあった
少しスペースを空かして文字が書かれていたので多分2つの文を書いたのだろう



何語だろうか
英語ではない
もちろん、日本語でもない
インターネットでその言語を探す

しかし、なかなかそれらしい国の言葉は見つからない


スペイン、イギリス、ヘブライ、ペルシア…

どれも当てはまらない文字列だ

造語か?



違う、これに似てる
アラビア語の…

そうだ

これは鏡に反転した文字を書いたものだ

そうとわかれば早速その文字がどんな言葉なのか調べる



わかったのはたったの数秒後
しばらく優実を見つめたあと、そっと頬を撫でる
相変わらず規則正しい寝息でぐっすり寝ている


「何で、こんな言葉…」



“全ての痛みは生きてる事への罰だ“

“愛される価値も幸福もお前にはない“



反転させた文字は確かにこういう意味だった

このタトゥーが事故にあった時に呟いた言葉とも関係があるのだろうか
この意味が泣いた時にあんなサイトを開いた事と関係があるのだろうか



優実が抱え込んでいる痛みを知りたい

自分の体に刻んだ言葉があまりにも悲しく、

サイドスワイプはただ目を瞑っている優実に口付けをした


::



「んー、おはよう〜」

朝の日差しが眩しく、体を起こした

あ、そういえば下しか履いてないんだ

床にあった下着をつけて、黒いTシャツを着る

「スワイプ?」
見ると、キッチンの方で何かしている

「…おはよう、ココア好きだろ?」
テーブルの上に置かれたココアは湯気をたたせていた
「ありがとう。ホントは私が作んなきゃいけないのにね。」
家の主がくつろいでどうするんだ

だけど体はけだるく、このまま座ってたい
「いいって。結構無理させちゃったしな。」
無理、と言われ夜の事を思い出す
そういえば結局4、5回はイった

「ほんとだ。私無理してた。」
あははと笑うとココアに口つける

んー、甘くて美味しい
「…」

自分もコップを借りココアをテーブルの上に置いた
リモコンを手に取りテレビを付け出した優実はいつもと変わらない



「わっ、今って朝の4時だったの?久し振りにこんな早起きしたー!」

テレビの時刻を観て驚いている

二度寝絶対しちゃう、と笑った

「なぁ、」
「んー」
つまんなそうにテレビのチャンネルをころころ変えてる

仕方なく真面目なニュース番組にやっと落ち着いた

「背中のタトゥー」

言ってみた
もしかしたら、見られたくなかったのかも

けど、刻んだ理由を
あの言葉にした理由を知りたい
少しでも自分が力になれるなら

「あ、気づいた?あれね、ハングル語で《きっと全て上手くいく、君は大丈夫》って意味なんだよ。」



サイドスワイプは少し黙った後、「そうか」とだけ返した

ショックだった
本当の意味を言ってくれると思っていた

反転させた意味も、全部



だけど、まるでそれが本当かのように
平気で自分に嘘をついた



きっと意味などわからないと思って言ったのだろう
優実はココアを冷ましながら飲んでいる


後ろめたい表情をするわけでもなく

頬を膨らませて飲もうとしてる姿が憎くて、ひどく愛しい

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