■その他キャラ■

□【love for…】
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「いいのか。」


千恵美は着ていたTシャツを脱ぎ下着姿になる
「構わない。」
ぱさりとTシャツを床に置いた

椅子に後ろ向きで座り背もたれに腕をかけラチェットに背を向ける
そして下着のホックをはずす

ラチェットからはただ肩にぶらさがってるだけの下着姿が、ほぼ何もつけていないまっさらな背中が露になっている

千恵美はポケットから一枚の紙を取りだし振り向かず反対の肩の上で紙を受けとれとヒラヒラする

「この文字は…アラビア語か。」
サーチすれば何処の国の言葉か簡単にわかる
ラチェットはインプットして受け取った紙をくしゃりと鉄の手で丸めごみ箱へ投げる

「下着で隠れる位置にお願いね。」
「相変わらず細いな。」

返事の変わりに引き締まった背中を指でなぞると、ひゃっと声をあげる
「金属のまま触らないで。冷たい。」
横目で軽く睨むと再び顔を戻す

「何故この言葉を選んだ?」

光線のようなものを目から発し背中にあてる
先ほどのアラビア語がみるみる書かれていった

「いろいろあるの。」

そう濁し少し痛む背中に意識を集中させた
そしてほんの十数秒で文字は出来上がった

「出来たぞ。」

鏡を手渡すラチェットから後ろ向きのまま受け取り、ラチェットも別の鏡を持つ
ラチェットのサイズからしたら小さい鏡だが器用に見える角度へ揺らした


合わせ鏡で背中の文字を確認する
綺麗な仕上がりの上に早いしお金もかからない
彫りたてに出来る赤みもない

最高のタトゥー彫り師だと満足すると鏡をラチェットに返す
ホックをつけ椅子から立ち上がるとラチェットと目が合った

「人の体じろじろ見ないで。」
「目の前に女性が下着姿のデニムで居れば見ない方が無理な話だな。」
千恵美が再び後ろを向いて床に置いたTシャツを手に取る
タトゥーはちゃんと隠れており裸にでもならなければ見えない

「この位置に刻んだのは意味深だな。見れる者は彫った私か、更衣室で一緒になった同性か…千恵美を抱く男くらいだな。」

Tシャツを着終えた千恵美はラチェットを見上げる

彫ってくれたラチェットにはもう見せることなどないし、更衣室などで着替えるといっても下着までは滅多に着替えないだろう

脱がなければ見えない位置に刻んだ言葉




愛がないことなど知っている



アラビア語のタトゥーはそういう行為をする相手に向けた言葉だった

「本当に愛してくれる人だったらどうするんだ。相手はこんなタトゥー悲しむぞ。」
その言葉を聞いてふふ、とから笑いをした

「まず、そんな人居ないし仮に居たとしてもこの言葉の意味は教えないから大丈夫。」

スライド式の扉を開け彫ってくれてありがとうと言ってラボを出ていった


一人になったラボで先ほどごみ箱に投げた紙からのぞく言葉を見下ろす
“愛“の部分がくしゃくしゃの紙から見えていた



お前は何もわかっていない

愛してる者がここに居ることも
その者が意味を理解していることも

そしてそのタトゥーで少なからず複雑な心情に駆られてる者が居ることも


過去に何があったか話そうとしないお前は
自ら独りになることを選択した

たとえ本当に愛し合っていても
愛などないと自分に言い聞かせてるお前の

ひどく悲しい様を私は見たくない



love for…


(消してほしいと思わせる相手は私じゃなくてもいい)

(寂しく独りで笑う君を見たくはない)







end

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