征す者、愛す者

□5. それは、止まない
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あれから、季節はめぐり……



1年が経った。


芙裕希と征十郎は、小学5年生。





土砂降りが煩い中で、


赤司 詩織は、静かに
息を引き取ってしまった。








葬儀が執り行われ、遠い親族であり
交流も深い赤墨家も参列する。


……母が隣で 溢れ出る涙を止められないでいる。


しかし……。


欠けた赤司一家は 一片の感情も読み取れない無表情で、亡き人を写した遺影を

ただ、見つめていた。


その姿は、まるで
涙など知らない様な、堂々としたものであったが……

芙裕希には 同時に、危うい脆弱さをも感じ取らせた。









『……』

御経の声が 重く響く中、芙裕希は 思い返す。

赤司 詩織の
生前に病室で言われた、あの言葉。
それは 彼女の命が失われた事で、より深く 心に刻まれていたのだ。


― 征くんのお父さんは、厳しい人。



そして、征くんをよろしく……と。




母がこの世から消え、父に変化が起きた。


俺への教育が理不尽なまでに厳しく、
執着するようになったのだ。
元から厳しかった…が、もう違う厳しさへと変わった。

スケジュールは固められ、憩いの余地はない。

…母さんが無理に作ってくれていた家庭での癒しも、潰れてしまった。

2度と、訪れない。


きっと、芙裕希と会えるような時間も得られない。


俺に残るのは、母が与えてくれた、
バスケットボールの楽しさと技術だけなのだろう。



重苦しい空気感に潰されそうになりながらも、身体の疲労に耐えた。
名家の息子が、皆が集まる場面で粗相をしては、父に叱咤される。

それらしく、生きなければならない。
これからも。


絶えず降り注ぐ雨は、まるで自分の
《これから》を現しているかのように
感じるばかりだ。




晴れる、だろうか。





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