征す者、愛す者
□4. 曇りのち
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……詩織さんが倒れ
入院されてしまってから、早くも1年が経過した。
詩織さんは、まだ退院できていない。
征くんや、母の話によると、
あまり容態は良くないらしい。
……むしろ、悪くなってしまっているのだろう。
征くんは気丈に、努めていつも通りに振舞っている……が、
私には、不安に潰されぬよう必死で
自己を押し殺している様にしか見えなかった。
そんな征くんは、見ていると
自分の事のように心苦しく感じる。
少しでも、元気づけてあげられたら……。
しかし、いくらそう思って
私がどう足掻いても、
おそらく意味は成せていないだろう。
……仕方がない。
……今の自分では、
……どうしようもない。出来ない。
それは よく分かっている。……つもりだ。
自分の気持ちと 状況の折り合いに、
正直 芙裕希は、子供ながらに悩んでいた。
◇
小学校がお休みの土曜日。
私が今いるのは、
どこか寂しい空気を漂わせた、真っ白な病室。
母と一緒に、詩織さんのお見舞いに
訪れていた。
『詩織さん……』
「……大丈夫よ、芙裕希ちゃん。
そんな顔しないで?
ここ最近は体調がいいから…安心して」
にこりと微笑んでみせる詩織さんは、
なんだか儚さを覚えた。
「ねえ、詩織さん。何か飲み物を買ってくるけれど……何が飲みたいかしら?」
母が問いかける。
「うーん。そうねぇ……。
甘いものが飲みたい気分だから……
リンゴジュースをお願いしようかな。
亜希さん、いつもありがとう」
「いいのよ、どんどん甘えて頂戴ね! 芙裕希は、何が飲みたいかしら?」
母は詩織さんと何気なくやり取りし、
そのまま私に飲み物の希望を聞いてくれた。
『…私も詩織さんと同じリンゴジュースがいいな』
私はなんとなく、それを選んでみた。
「わかったわ。それじゃあ、
行ってくるわね。芙裕希、
大人しく待っていなさいね?
騒いだりしちゃダメよ?」
余計なことを私に伝えて、
母は病室をあとにした。