征す者、愛す者

□4. 曇りのち
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……詩織さんが倒れ
入院されてしまってから、早くも1年が経過した。

詩織さんは、まだ退院できていない。


征くんや、母の話によると、
あまり容態は良くないらしい。



……むしろ、悪くなってしまっているのだろう。



征くんは気丈に、努めていつも通りに振舞っている……が、
私には、不安に潰されぬよう必死で
自己を押し殺している様にしか見えなかった。


そんな征くんは、見ていると
自分の事のように心苦しく感じる。


少しでも、元気づけてあげられたら……。

しかし、いくらそう思って
私がどう足掻いても、
おそらく意味は成せていないだろう。


……仕方がない。
……今の自分では、
……どうしようもない。出来ない。

それは よく分かっている。……つもりだ。



自分の気持ちと 状況の折り合いに、
正直 芙裕希は、子供ながらに悩んでいた。





小学校がお休みの土曜日。


私が今いるのは、
どこか寂しい空気を漂わせた、真っ白な病室。

母と一緒に、詩織さんのお見舞いに
訪れていた。




『詩織さん……』


「……大丈夫よ、芙裕希ちゃん。
そんな顔しないで?
ここ最近は体調がいいから…安心して」

にこりと微笑んでみせる詩織さんは、
なんだか儚さを覚えた。



「ねえ、詩織さん。何か飲み物を買ってくるけれど……何が飲みたいかしら?」

母が問いかける。

「うーん。そうねぇ……。
甘いものが飲みたい気分だから……
リンゴジュースをお願いしようかな。
亜希さん、いつもありがとう」


「いいのよ、どんどん甘えて頂戴ね! 芙裕希は、何が飲みたいかしら?」


母は詩織さんと何気なくやり取りし、
そのまま私に飲み物の希望を聞いてくれた。

『…私も詩織さんと同じリンゴジュースがいいな』



私はなんとなく、それを選んでみた。


「わかったわ。それじゃあ、
行ってくるわね。芙裕希、
大人しく待っていなさいね?
騒いだりしちゃダメよ?」

余計なことを私に伝えて、
母は病室をあとにした。
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