さようなら

□さよなら
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フロンティアストラトスと、第十七極東帝都管理区。どちらか1つの世界しか生き残ることができないボクらが、互いの存続をかけたもう一人の”自分”達との戦い。
先の見えない激闘を何度も何度も繰り返したボクたちの末路は、とある戦闘がきっかけとなって帝都勢力がフロンティア勢力のエージェントを壊滅させ、キーパーソンとされる人物らを全て撃破することで幕を閉じた。
第十七極東帝都管理区の存続という形で。ボクたちがずっとずっと望んでいた勝利という形で。
なのに、何故。あれだけ望んでいた筈の勝利がどうしてここまで、ボクの心を苛むのだろう。
無論帝都管理区のエージェント達の顔はどれも明るい。鏡華なんて殊更に喜んでいた。先程など興奮した面持ちでボクの身体をぎゅっと引き寄せて、『私達あいつらに勝ったんだよレミー、これでずっと消えずにここで生きていけるんだね!』と嬉しそうに語りかけてくれた。
いつもなら抱き付かれるだけでも頬が上気するほど嬉しいはずなのに。笑顔を返そうとして照れ臭さを隠しながら、どぎまぎと頷いたりしていただろうに。
けれど無意識に顔を歪めていたのかもしれない、彼女はボクの顔を見るなり驚いたように身体を離して距離を取り、不思議そうに首をかしげていた。
『どうしたの?これでレミーもあんなにめんどくさいって言ってた戦いに行かなくて済むんだよ?だって敵はもう消えちゃったんだから!ね?嬉しいでしょ?』
「そうだね…ボクたちは消えずに、済むんだもんね…」
何故か、どうしてかその時の鏡華の笑顔がボクには眩しすぎて、ボクは取り繕った言葉をやっとのことで吐き出して、逃げるように背を向けてその場を後にしたのだ。
エージェント達が涌いて喜んでいるあの輪の中にいるのが、痛くて堪らなかった。ボクたちがこの戦いで得たものはこの世界と自分一人という確固たる存在であるはずなのに。ボクの心は寧ろ何かが欠落してしまったかのようで、じくじくとした気持ちの悪い痛みが全身を支配していた。
これはボクたちの、いや、ボクの望んでいた結末ではなかった。
ボクが本当に欲しかったのは、自分一人だけが存在できるという証明なんかじゃなかった。そうではなくて、本当に欲しかったのは、ボクのことを全て理解して受け止めてくれる存在で――
気がつけば、ボクはなにもない地べたにぺたんと座り込んでいた。
超能力も使わず、ただなにも考えずに歩いているうちに力尽きてしまったらしい。
なんともなしに辺りを見回してみると、そこには人目を隠すようにして建物の影に身を潜める草影の姿があった。
体育座りの格好のまま、微動だにもせず、ボクの姿にも目をくれずにひたすら地面を睨み付ける青年。口元を大きく覆う布に隠れてよくは見えないが、彼の大きな瞳にはうっすらと涙の後のようなものが見える。
そうか、彼は向こう側の”自分”と自分の悩みを相談し合うほど仲良しで、だから――
そう気が緩んだ瞬間に、ボクの脳裏には、自信満々な笑みを浮かべるボクと同じ顔の少年の顔が浮かび上がってきてー―
「うわああああああ!!!」
咄嗟にボクは走り出していた。形振り構わず、出口を求めてのたうち回る激しい感情の波を、獣の遠吠えのように形のない叫びに変えて。
そうだ、ボクは行かなければならない。そして取り戻さなければならない。
ボクを唯一理解してくれた存在を。意識こそしていなかったけれど、ボクを一番近くで支えてくれていた大きな存在を。
こんなところで、こんな形で、”あいつ”を失うわけにはいかないんだ。
だから、待ってて。行かないで、お願いだから。もう一人のレミー・オードナー――
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