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□嫉妬と
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ワープゲートを通ってアジトに戻ってくると、不満げな声でおかえり、と名前が俺を出迎えた。
ところが俺は両腕両足撃たれてるからそれどころじゃない。それに返事をするのも億劫で床に倒れこむ。

「そんなとこで寝ると汚いよ、弔くん。って、あーらら。撃たれたのかー。カーワイソー」

ちっとも可哀想なんて思ってない口調で名前が傍にしゃがんで俺のマスクを取って覗き込む。

「私を連れてかないからだよ」
「煩い…」
「ねえ、見てたよ?イレイザーヘッドと戦ってたでしょ。いいなぁ、いいなぁ。私も戦いたかった。何で連れて行ってくれなかったの?」
「…煩い…」
「挙句に脳無にイレイザーヘッドボコボコにさせてさぁ、あれは許せないよ。殺してないよね?」
「…黙れ」
「殺してたら本当に許さない。イレイザーヘッドには私を殺してもらわないといけないんだからさぁ。イレイザーヘッドが死んじゃったら誰が私を殺してくれるっていうの?」

俺の言葉を無視して喋り続ける名前に腹が立つ。
今俺はそれどころじゃないし、心配の言葉一つもかけられないのかこの女は。どういう神経してるんだ、俺は撃たれてるんだぜ。可哀想以外にもあるだろう、他に。何か。それをこの女はイレイザーヘッド、イレイザーヘッドと…。
腕の痛みに耐えながら、名前の足首を掴んで引く。
予想外だったのか、間抜けに尻餅を付いた名前。ナイフを取り出した右手を掴んで床に押し付け、馬乗りになる。

「ちょっと…足首崩れかけたんだけど」
「煩いんだよ」
「弔くん怒ってんの?イラついてんの?平和の矜持へし折れなかったから?」
「口閉じないと殺す」
「弔くんには無理だよ」

この女は俺の神経を逆撫でするのが本当に得意だ。無意識にやってるなら賞賛してやりたい。
ゆっくり気道を圧迫してやると、名前の表情から余裕が消える。

「ちょ…それ嫌だ…」
「黙れって」

名前の個性の『不死身』のおかげでコイツは死にはしないし馬鹿みたいに痛みには鈍いが、呼吸は人と変わらない。首を絞められれば普通に苦しいらしい。俺の個性で崩すよりよっぽど効く。
名前が空いてる手で俺の手を掴む。

「と…、むら…く…っ」

血の気が引いて蒼ざめていくのが少しだけ面白い。カラン、と右手からナイフが落ちた。
呼吸が出来ないだけで死なないからただただ苦しいのが続くだけだ。

「――ッカハ…!ッ…と、むら…くん…ほん、とまじ…やめ…ん、むぅ…っ」

両手の代わりに唇で唇を塞いでやれば、そうすればまた窒息していて足をじたばたさせたから、うざくなって体を離す。
急激な酸素に噎せ返る名前に幾分か苛立ちが解消された。

「っ…ばか!ファーストキスだったのに!」
「ハハハ、そんなものとっといてたのかよ」
「傷口にばい菌入って死んじゃえ!」
「痛ッてぇ!」

カウンターの上にあった物を投げつけて、名前は部屋に消える。
オイオイ、撃たれたところに当たったんだが。傷口が開いたらどうしてくれる。

「終わりましたか?」
「黒霧お前どこ行ってた」
「"先生"との回線を繋げていました。傷の手当てをしましょう。…おや」

ないと思ったら。
黒霧がカウンターの上に置いてある救急箱に気が付く。
さっき投げられた消毒液を黒霧に渡す。

「可愛くねえ」




心配と



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