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□好きな人のものは何でも欲しくなる
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「相澤って部屋に何もなさそうだよね」

隣でゼリー食を食べる相澤を見ながらそういうと、ものすごく怪訝な顔をされた。

「何だいきなり」
「私の個性の話」
「は?」

私の個性『盗窃』。触れた人や物の何かを気付かれることなく盗める。
中学までは何か物がなくなる度に疑われたものだが、高校に入って相澤と一緒に行動するようになってからはそれもほとんどなくなった。
まあ、つまり、周りから見れば個性を消せる相澤は私の監視役なわけだ。隣の席だし。
実際は個性知らなかった頃から仲良くしてたけど(私が一方的に)。

「いや、私って個性使わなくても元々ちょっと手癖悪いじゃん」
「そうだな。昨日持っていったシャーペン返せ」
「あ。今日も筆箱忘れたから、ちょーだい」
「………」

睨まれた。

「人のものって魅力的だよねえ。…あ、猫」

相澤が指さした方向を向いた瞬間に個性で相澤が持っていたゼリー食を盗む。…あんまり美味しくないな。
相澤ってこんなんばっか食べてて栄養偏ってないのかな。っていうか歯弱そう。おじいちゃんか。
相澤が猫がいないことに眉を寄せて私を睨む。

「…欲しいならそう言え」
「相澤って猫好きだよねえ」
「話が噛み合ってない」
「あんまり眉間にシワ寄せてると癖つくよ」

相澤にゼリー食を返しながら立ち上がり、伸びをする。
あれ、何の話してたっけ。

「あ、そうだ。相澤ってご飯何が好き?」
「だから何なんだ」
「相澤の家に行く理由をつけたくて。作ってあげるよ。味は保証しないけど」
「何で」
「相澤の家にあるものが何か欲しくて。シャーペンとか消しゴムじゃ飽きちゃったから」
「お前な…」

にひっ、と笑うと相澤がため息を吐いた。
隣に座りなおして言う。

「私が盗るのは相澤のものだけだよ」
「…そうか」
「相澤のものだけが魅力的に見えるの」
「……」
「照れた?」
「煩い」
「照れたんだ」
「お前、ヒーロー志望ならその手癖の悪さどうにかしろ」
「話逸らしたね…あ痛っ!」

デコピンされた。痛い。
今度は相澤が立ち上がって歩き出す。
私も慌てて追いかける。

「じゃあ相澤が私のものになってくれたらもう何も盗らない」
「……」
「だめ?」

相澤が立ち止まる。私もつられて立ち止まると、校舎の方から予鈴が聞こえてきた。
………あ。これって告白か。今更気付いた。何か急に緊張してきた。
予鈴が響き終わるのがやけに長く感じる。こんなことって本当にあるんだ。
相澤の表情は長めの髪に隠されて見えない。相澤って猫っ毛かなあ。猫好きなだけに?ウケる。

「俺は誰のものでもないが、いいのか?」
「…は?」

え?今私フられた?いや、そんな雰囲気じゃない、よな。
唐突な相澤のボケ(いや、本人は至極真面目そうなんだけど)に戸惑うしかない。
何を言ってんだコイツは。って顔をしていたのか、相澤が忘れてくれ、と顔を逸らしてまた歩き出した。
そして私も唐突に理解する。

「あっ、待っ…!い、言ったじゃん!私は“相澤の”ものしか盗らないって!」
「…。…そうか」

合点がいったらしく、相澤が私の言葉に振り返る。
歩いたり立ち止まったり振り返ったり、端から見たら変な人だ。可笑しくて笑うと、相澤が怪訝そうに眉を寄せた。

「あはは。じゃあ、よろしく……ぅわっ」

手を差し出すと相澤に引っ張られる。
相澤の胸に飛び込む形になって、ぎゅっと抱きしめられた。体温が高くなる。あ、今絶対顔赤い。多分相澤も赤い。
遠くで本鈴が鳴っている。仲良く遅刻だ。





好きな人のもの
(この度相澤と付き合うことになりました!ハイ、マイク祝って!)(オメデトー。つーか、お前らまだ付き合ってなかったのか)



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