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□生き急ぐ
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戦うことは好き。
自分より強い相手を倒した時の達成感とか、成長した感じとか、充実感とか、とにかく心が躍る。
東の海の比較的平和な島で育ったけど、島の男たちに負けなくなってすぐ刺激を求めて海に出た。
元々腕っ節は強かったらしいし、生まれつき体も頑丈で、どうして、と問われてもそういう性質だとしか言いようがない。多分前世が戦闘民族だったとかそんなんだ。
それから出会ったのはルフィたち。未来の海賊王の船に、私は乗っている。

「あ」

敵の攻撃が私のお腹を貫いた。
薙ぎ払われて遠くへ飛ばされる。
壁に背中を強打して、肺の空気が押し出されて血と一緒に吐き出された。
仲間たちの焦ったり怒ったり、いろんな声が聞こえる。
そんな中で一際大きく、私の名前を呼ぶ声がした。

「名前ちゃん!!」

痛いのは嫌い。
戦いの最中は気にならないけど、戦いが終わったあとの痛みは、私の弱さを知らしめる。
身体が動かなくて、私は負けを悟った。
サンジの蹴りがとどめを刺しにきた敵から守ってくれたのを最後に、目を閉じた。







***

「名前〜〜!!!!よ゛がっだあ゛〜〜!!!」

目が覚めたらチョッパーの第一声。
小さな体が私の身体に抱きついて泣いている。
どうやらしばらく眠っていたようで、チョッパーが大声で皆を呼んだ。
お腹には大袈裟なくらい包帯が巻かれていて、まだ少し痛む。
ダダダッと走ってくる音がして、ルフィとウソップが入ってくる。
心配したんだぞと言いながら背中を叩いてくるルフィをウソップが止め、次に入ってきたのはフランキー、そしてブルックがお見舞いの歌を歌ってくれた。遅れてゾロが来て、私を手合わせに誘ってきたから快諾しようとして、病み上がりだぞ!とチョッパーに怒られた。
そこにナミとロビンが替えの服を持ってきてくれて、男たちを追い出す。

「アンタもっと自分大事にしなさいよ、女なんだから」
「そうしたいけど、こればっかりはしょうがないよ」
「サンジも心配していたわ」
「そうよ。サンジくん、アンタが傷つくたびにアンタより死にそうな顔してるんだから」
「へえー…」

ナミが肩を竦めてロビンと目を合わせる。
そのとき部屋の扉がノックされた。
遠慮がちなサンジの声。

「あー…、名前ちゃんに飯作ってきたんだが…、いいかい?」
「いいわよ。私たちも出ていくところだから」

ナミが扉を開けてサンジを招き入れる。
髪を梳かしてくれていたロビンが私の背中を一撫でして耳元で囁く。

「あんまり心配かけさせちゃだめよ」

ナミとロビンが出ていくと部屋には私とサンジ二人きりだ。
サンジの料理のいい匂いがして、お腹が眠り続けていた分の空腹を訴えた。
そういばルフィは気を失っていてもご飯を食べられるって技を習得していたな、と思い出して笑えた。

「ん?」
「何でもない。ありがと、助けてくれて」
「イヤ、礼なんていいんだよ。結局…守れてない」
「でも生きてる」
「君の身体に傷が残ったらと思うと胸が張り裂けそうになる」

私にスープとパンを差し出しながらそう言うサンジは、眉を頼りなく下げて、不安げで、なんだかすごく、痛そうだ。

「…本当に死にそうな顔してるんだね」
「え?」
「ナミがそう言ってた。それだけ心配してくれてるんだよね。ありがとう。でも、私は大丈夫だよ」

スープとパンを受け取って口に運ぶ。
サンジの料理は美味しいだけじゃなくて力も湧いてくるんだから凄い。
よし、お腹の痛みも大したことないし、これならもう動ける。

「ごちそうさま」
「どこ行くんだい?」
「ん?もうこれ以上心配かけさせないように、鍛錬しようと思って」
「名前ちゃん…キミは…、」
「大丈夫だって。サンジのご飯で元気出たし。無理はしないよ」

じゃあね、と踵を返す。
けれど、サンジに腕を掴まれた。

「どうしたの?」
「………いや、すまねえ。何でもないんだ」
「……変なの」

腕が放されて、私は今度こそ甲板に向かう。
サンジの諦めたような、それでいて吹っ切れたような何かを決意したような瞳が尾を引く。
理由を考えてもわからない。
わからないなら考えても仕方がない。

「………鍛錬しよ」





守らせてくれない
(戦うキミはとても美しい)(だから、オレがもっと強くなるしかない)


 

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