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□見えない
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暗くって窮屈な箱みてーな空間。
殺すより閉じ込めておくことに特化したスタンドだろう。
「お前あんま動くなって」
「ご、ごめん…」
目の前でもぞもぞと名前が動く感触がする。
敵のスタンドに仲良く二人で閉じ込められてどれくらい時間が経っただろうか。
俺は胡座をかけているけど、名前は多分俺を跨ぐように膝をついてる。
真っ暗だから何も見えねーけど、きっと体制が辛いんだろう。窮屈な空間だから余計に。
名前のスタンドで壁が壊せなかったとなれば、エアロスミスじゃあ跳弾の可能性もあって打つ手なしだった。だけど、仲間に連絡は出来た。あとはブチャラティたちが助けてくれるのを待つしかない。
「お前膝立ち辛いなら腰下ろせよ」
「えっ、いや…」
「何だよ」
「それじゃあナランチャの膝に座ることになる…じゃん」
「だから?」
「その…」
「?」
普段はもっとハキハキ喋る癖に急にどうしたんだ?
「何だよ、トイレ我慢してんのかぁ?」
「違う馬鹿!重いからいいって言ってんの!」
「痛ッッて!殴ることねーだろ!」
「いいって言ったのそっちだから!」
「お前出たら覚えとけよなァ」
結局俺の膝の上に大人しく座ることにしたらしい。
膝に名前の体重が乗る。別に大して重くもない。
さらりと名前の長い髪が体に触れる。そういえば出会った頃はもっと短かったよな。
「名前、髪伸びた?」
「ひゃっ!?きゅっ、急に触んないでよ…!」
「伸ばしてんの?」
「そ、うだけど…」
「ふーん」
暗闇ですることもなく、名前の髪を梳く。こいつの髪こんなさらさらだったっけ?
腰を下ろした名前の体は意外と小さく感じた。暗いからかもしれない。
名前の髪は肩までの長さに伸びていた。触れた肩は俺より細い。
「お前、縮んだ?」
「ナランチャの身長が伸びたんでしょ」
「そうかあ?」
「伸びたよ」
だんだんようやく目が慣れてきて、暗闇でも何となく名前の表情がわかる。
──なんか、可愛くね?
名前とは同い年で、チームに入ったのも同時期で、何かとウマが合って、殴り合いの喧嘩もしたし、兄弟みたいなやつだ。
そもそも最初は女らしさなんて欠片もなくて、俺は男と間違えたくらいだ。
それが今は──
暗闇の中、名前と目が合う。
「……え?」
「……は?」
気付いたら至近距離に名前の瞳があった。
唇に、唇の感触。
驚いて思い切り飛びのこうとして、思い切り頭を打った。
「痛ッッてェ!!!!」
「は?え?ちょっ、大丈夫?今すごい音したけど!」
名前だけが現状を把握出来ずに慌てふためいている。
もしかしたら俺がしたことも気付いていないかもしれない。
名前が手探りで俺の頭に触れる。メチャクチャ痛い。
「コブ作るの好きだね」
「好きなわけあるかよぉ〜」
けらけら笑いながら俺の頭を撫でる名前に涙目になりながら内心ホッとする。
あー、でもクソ。心臓がうるせえ。
「よしよし」
痛みと心臓の早さににうなだれていると名前が俺の背中を片手でポンポンと叩いた。
「こっ、子供扱いすんなよ」
「いいから」
自然と体が密着して、心臓の音が聞こえちまうんじゃあないかと焦る。
行き場のない自分の手をどうしたものかとうろうろしてしまう。
ふと、名前のもう片方の手と触れた。──俺と同じくらい、熱い。
一際心臓の音が大きくなった気がした。
近すぎて。