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□ヘアアレンジ
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私自身、髪に特別な思い入れがあるわけじゃない。
普通に普通の女子くらいの手入れはするし今は長いけど、伸ばしてるわけでもない。

「出来ましたよ、ヨホホホッ!今日も名前さんは可愛らしいですね」
「ありがとう」

随分前に髪が伸びてきて邪魔そうにしている私を見かねたブルックが、結ってくれたのが始まりだった。
最初はシンプルに一つ結び、三つ編みに続いてお団子と日課になってきた頃から、あまりにも楽しそうに結ってくれるし、最近は雑誌だとかナミだとかにヘアアレンジを教わっているらしくて切るに切れなくなってしまった。
今日はフィッシュボーンというアレンジらしい。私の癖っ毛を編み下ろして根元をブルックのスカーフと同じ色のリボンで留めてくれている。
三つ編みとは少し違う、魚の骨みたい。

「髪もリボンも、ブルックとおそろいだ」
「ヨホホ、当たりです」
「ブルックは器用だね」
「伊達に何十年も生きてませんからね」

ニコ、と嬉しそうに笑うブルック。
骨なのに表情が変わる神秘。
甲板に出るとナミやロビンが「似合ってる」「可愛い」と褒めてくれる。
船内で一番年下だからか、それともブルックとの組み合わせだからなのか、年齢より子供扱いされているような気がしないでもないが、悪い気はしない。
かく言う私も、ブルックの細い骨の指が髪を梳くのが心地よく感じているのだ。
だから髪を切るつもりなんて一切なかったのに。

「あーあ…」

島を一人で探索していたら海賊狩りに遭遇した。麦わらの一味となれば知名度もあればそれなりに懸賞金の額も高いし、それ目当てなり首目当てなりで強い奴らと戦うこともある。
今日はちょっと浮かれていたせいで、油断してしまった。数が多かったのもある。数に押されて、敵の一人に髪を掴まれてしまったのだ。
首に刀を当てられればなりふり構ってもいられない。
私は持っていた刀で髪を切り落とした。
敵は倒したし後悔もしていないけど、喪失感は大きい。
落ちていたリボンを拾って埃を叩く。
しばらくブルックに髪を触ってもらえないのかと思うと少し、いやかなり残念だ。
船に戻ると船番のブルックに真っ先に見つかった。
私を見つけると慌てた様子で駆け寄ってきてくれる。

「大丈夫ですか?お怪我は…」
「大丈夫、大したことないよ。それより、ごめんね。髪…」
「どうして名前さんが謝るんですか?」
「だって、私の髪…もう結えないよ」
「ヨホホホ!そんなことですか」

ブルックが私の手を引いて鏡の前に座らせる。
咄嗟に切ったせいで乱れまくった毛先を整えながらカットしてから、ブルックの指が髪を梳く。

「ほら、出来ましたよ」

鏡を見ると髪は肩より短くなっていたけど、今度は前髪に小さな魚の骨が出来ていた。
その尻尾にさっきのリボンを結びつける。

「短くてもヘアアレンジは出来るので、ご安心を。あなたが無事でよかった。これからも結わせてくださいね」

ヨホホ、とブルックがまた嬉しそうに笑うもんだから、小さく私はうん、と返すことしか出来なかった。
早く髪が伸びればいい。じゃないと、この赤い顔を隠すことが出来ないから。





この恋を結ぶには



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