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□奇跡の一枚を永遠に
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パシャッ

「あ」
「……何してるんです?」
「いやー、私もいつ帰るかわからないから記念に一枚撮っとこうかなって」

ソファ越しにそう言えば、スマホの向こうで眉を顰めるジョルノ。
今やギャングのボスにまでなってしまった彼と、何かの拍子にジョジョの世界にトリップしてしまった(元)一般人私。
彼がボスになった以上、お話も終わってしまったのだから私もぼちぼち帰る、はず。帰り方知らないけど。
だからその前に、私の目の前に大好きなキャラクターが存在していたことを残しておきたかった。
音を出すつもりはなかったんだけど、出てしまったものは仕方がない。
隠し撮りは失敗した。

「ごめん、不快だったら消すよ」
「いえ、構わないですよ」
「じゃあ堂々と沢山撮ってていい?」
「素直ですね」
「まあ折角憧れの人が目の前にいて写真の許可出してくれるんなら連射するよね。今まであんまり写真撮る機会なんてなかったし」

出来れば自然体でいてほしい、と無茶振りすれば、ジョルノは呆れたように笑って、私の存在を無視することに決めたようだ。
手元の書類に目を通し始めたのを、今度は無音カメラで撮る。
嘘でしょってくらい最高に顔がいい。
うわ睫毛長っ。
ズーム機能ってほんとすごい。寄らずに寄れる。最高。
ああ〜これ帰ったら待受にしよう。

「名前」
「うぁっい!!」

画面越しに急に目が合う。ビックリして変な声出た。
でもシャッターチャンス逃さなかった私偉い。
ジョルノが立ち上がって私の方に向かってくる。

「え、何?音出してないとはいえ気が散った?」
「いいえ。名前、あれやりましょう」
「あれ?」
「ナランチャとやっていたでしょう。ええっと、自撮り?」
「自撮り……」
「来て」
「おおぉう……!?」

ジョルノが隣に座って私の肩を抱き寄せる。
サラッとこういうことしてくるイタリアイケメン男児怖い。
一度教えたことがあるからか私の手からとったスマホの操作も慣れたもので、長い腕を伸ばしてカシャリ。
何これ、アイドルとのツーショ?夢?
ジョルノが撮った写真をまじまじと眺める。写真写りはまあまあ悪いからあんまり見ないでほしい。てか絶対今変な顔してた。全力で加工したい。

「いつもなら逃げるのに」
「へぁっ!?」
「こんなに近いの、初めてですね」
「えっ、いやっ…まぁ、離れてたら撮れないじゃん…?」

バレてた!?
いつも私はジョルノとは基本距離をとっている。
何故なら推しの側で呼吸できるか?私は出来ない。

「名前」
「はい?」
「これからも一緒に写真を撮りませんか?」
「へっ?」

そっと距離をとろうとしたらジョルノが至極真面目な顔でそんなことを言うもんだから、私はまた変な顔で返事してしまう。

「君が帰りたがっているのはわかっています。でも、あえて僕の気持ちを言わせてもらうなら…どうか、帰らないで」
「うぉおああっ!」

差し出されたスマホを受け取るために出した手を、逆にジョルノが取ってその指にキスをする。
突然じゃなくても驚くよね!咄嗟に手を引くけど、ジョルノに逃すまいと掴まれてしまう。
待って待って待って何が起きてる?
整理させて整理させて。

「ちょっ、おっ、うぉっ…、き、急にそうゆうことするのやめてくれる…!?びっくりするし…、し、心臓がやばいから!」
「こうでもしないと逃げるでしょう」
「にっ、逃げ、ない…から…」

へぇ、と意味深な相槌。
ジョルノの手が今度はするりと私の頬を撫でた。
驚いて身を引きかけるけど、逃げないと言ってしまった手前、逃げることも出来なくて。やばい、震える。緊張で。
ジョルノの顔が近付いてくる。

「好きです、名前」
「ぁ、う…、ち、近ぃ…」

額が触れ合う至近距離に目を合わせることもできない。

「好きです」
「ぅ…」

息が唇にあたる。
喋ったら触れてしまいそうだ。
エメラルドの瞳が真っ直ぐ私を見ている。
近すぎる。思わずぎゅっと目を瞑ってしまう。

「好きです。全てを捨てて、僕のものになってください」
「は…、ぃ」

ついにそう小さく返事した瞬間、唇が重なり合う。
夢見てんじゃないかって思う。

カシャッ

「「「「「あ」」」」」

思わぬ音と第三者の声に猫のように飛び上がってしまう。
扉の方を見ればこちらをこっそり伺うような、護衛チームの面々。
え、かわいい…。とか言ってる場合じゃなくて。
その中の、ナランチャの手には一台のカメラ。

「ばっか、気付かれたじゃねぇか」
「しょうがねえだろ〜鳴っちまったんだから」
「────ッッッッッ!?!!!?!??!?」






消して!!!!!!!
(今ここにいる奇跡があるなら、どうかいつまでも)


 

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