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□泣いてくれ
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「効率が悪いよなぁ…」
「え…」

身体中に"手"を付けた男の前でぼろぼろと情けなく涙を流して試験管に貯めていく俺という異様な光景。
男はイライラと首を引っ掻く。
──男の名前は死柄木弔というらしい。
数日前に道で怪我をしていた彼を俺の個性で治したことがきっかけで、俺は誘拐された。
後から知ったが、彼はほんの一ヶ月前に雄英高校を襲撃した敵連合の主犯らしい。

「回復キャラがうちにはいないからさぁ、ヒーロー候補生でもないお前は丁度良かったんだけど、あまりにも効率が悪い」

死柄木さんは俺から試験管を奪うとその量を見てため息をつく。
俺の涙には治癒効果があるが、所詮は涙。いくら数日間号泣したところでその量は知れていた。
一回や二回の小範囲ならともかく、ヒーローと敵同士の戦闘における治療薬としては心許なさすぎる。

「す、すみません…」

だったら解放してもらえないだろうか。
ここ数日泣きっぱなしでろくに冷やしも出来ていない目元がヒリヒリしている。

「…腫れてんなぁ」
「ヒッ」

いつの間にか素顔の死柄木さんがすぐ目の前にいて後ずさるが、腕を掴まれてしまう。
ぐい、と顔を近付けさせられ、思わず目を瞑ると目元にぬるりとした感触。腫れた目元がピリリと痛みを訴えた。

「なっ、なに…っ」
「そうだ。良いこと考えた」

──舐めろ。

「……えっ……?」
「傷だよ。お前の個性は『治癒液』だろ?お前は涙で、とか言ってたけど、要するに体液なわけだろ。だったら唾液でも良いわけだ」
「は、あの、いや…」
「ちまちま涙なんかを集めるよりずっと効率的だろ。──ホラ」

再び腕を引かれて死柄木さんに引き寄せられる。
今度は首筋に顔を埋めさせるようにして。
そこにはさっき引っ掻いた傷。
確かに、確かに俺の『治癒液』は体液なら何でも良い。
けど、唾液だぞ。唾。涙も割とアレだけど。気持ち悪くないのか。
俺が躊躇っていると、後頭部を死柄木さんの手が撫でた。
一瞬死柄木さんの個性が脳裏を過って身を固くするが、そこよりも先に首筋にチクリとした痛みが走る。

「ッ!?」
「やり方がわからないなら教えてやろうか?」
「なっ、痛…っ」

ちくり、ちくりと小さく刺すような痛みに顔を顰める。
後頭部と腰を抑えられているせいで逃げることも出来ない。
ああ、もう。半ばヤケクソで目の前の傷に舌を伸ばして全ての傷を癒す。
死柄木はそれで満足したのか、解放こそしないが少しだけ体を離した。

「ハハ、キスマークだ」
「っ……」

気持ち悪い。
何で、こんな。くそ。

「なぁ、名前」

もっと良いこと思いついた。
死柄木さんがにぃ、と笑う。
腹の底が冷えて嫌な予感がした。

「精液でも、一緒のことだよな?」





鳴いて泣いて、たくさん出して。


 

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