屈折した、(愛の形)
□い
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い(勘彦)
昔から、何もかもが下手な子供だった。
忍術学園に入学して、い組の学級委員長になっても、頼りにされない。学級委員会へ所属しても、ぱっとしない。庄左エ門はは組をしっかりまとめて、鉢屋先輩ときっちり学級委員会を務めているのに。
(あ…)
悶々と考えていると、前から青い忍び装束が二つ。一つは確か竹谷先輩。もう一つは…新しく学級委員会へ入られた、尾浜先輩。
挨拶を、と心では思うのに、足は物影へ向かった。
もし僕が庄左エ門であったなら、挨拶出来るのに。役割を全う出来ていない身で挨拶をするなんて、失礼な気がしたんだ。…本当は、逆だって気づいてる。役割を全う出来ていないなら、挨拶くらいはしっかりしなきゃって…。
だのに、挨拶をしない僕にきづいているだろう先輩たち、先生たちは何も仰らないから、僕は甘えている。
こうゆうところが、ダメなのに…。
「おはよ、彦」
滲んだ涙を、少々乱暴に拭かれた。気づくと、目の前には大きな青。
いつも通り笑う尾浜先輩がそこにいた。
「お、はま…せんぱ…?」
涙を拭ってくれた先輩の指は、そのまま頬を撫でる。くすぐったいのに、心地が良い。僕にこう触れてくれるのは、母上のみだった。
「どーしてないてんのさ」
「あ、これは…な、んでも…」
「…そ?まぁ、今はいいや。挨拶もできたし?」
尾浜先輩の手は次に頭を撫でる。太陽の匂いと、草の匂いがした。
「彦はさ、俺から見たら努力家でいいこだよ?だから、挨拶も胸はってしな」
「…っ!」
どうして、欲しかった言葉を。
顔を上げると、尾浜先輩はもういない。その代わりというように、手にはいつのまにか饅頭があった。この前の委員会で、僕がいっぱい食べてしまったおいしい饅頭。口には出していなかった。先輩たちも庄左エ門も、あの時は談笑していたのに。
僕をみて、くれていたんだろうか…?あんな、太陽みたいな先輩が、僕を。みて。
「…尾浜先輩、先輩…っ」
そんなはず、ない。あの人は、皆に優しいんだ。だから、だから。分かって、いるから。今だけは、浸らせて。