屈折した、(愛の形)

□遠
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遠(綾伝)




「あああ綾部先輩ぃぃぃぃ!!!」

怒りに満ちた声が聞こえてきて、作法委員は手を止めた。その声が到着を待っていた作法委員の黒門伝七だったからだ。
立花仙蔵はじとっと綾部喜八郎を見、浦風藤内は頭を抱える。笹山兵太夫は一人気にせずからくりを弄っていた。綾部喜八郎はと言うと、飄々と生首フィギュアを見ている。

「…喜八郎」

立花仙蔵が先ず口を開いた。

「なんですか?」
「お前は、まだ伝七に嫌がらせをしているのか」
「嫌がらせじゃありません。だって、伝七はこっちから行かないと仲良くなれないじゃないですか」
「逆ですよ、綾部先輩が構いすぎるからです!」
「とりあえず、多分落とし穴に落ちてる伝七を助けましょうよぉ」
「落とし穴じゃなく蛸壺のたみちゃん。伝七の為にいっちばん良く作ったんだよ?」
「嫌がらせだろうが!」

立花の怒声にぶうたれた綾部を、藤内と兵太夫が押していく。すらっと戸を開ければ、蛸壺のなかに落ちた伝七がいた。

「うう〜!安藤先生〜!」

さっきとはうって代わり、ぐずぐず泣く伝七に、綾部は首をかしげ蛸壺を覗きこむ。

「伝七、伝七。どおしたの」
「ひっく、う〜…綾部先輩が、こうした…のでしょう…!」
「そう。だから、なんで僕を呼ばずに安藤先生を呼んだの?」
「お、落とした人なんて呼びませんよ…!」
「違うよ、呼んでほしいから、落としたんだ」
「…はぁ…?」

きょん、としている伝七と、伝えたいことは伝えたという顔で呼ばれるのを待っている綾部。
馴れ合うのはまだまだ先だなと、立花は笑った。

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