学園内の忍ぶ恋模様

□飴細工の恋は甘いもの
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*勘→←彦
*勘右衛門が学級委員長委員会へ入ってしばらく経った頃





ーーー「はぁあ〜・・・」



ぽかぽかと温かい日差しが差し込む一年い組の教室で、思わず漏れたため息に慌てて口を押さえ周りを見渡す。


けれどい組のみんなは早々と自室に戻ったようで、ガランとした教室に今度は安堵のため息をこぼした。


(ーみんなはさっきの授業の復習をするんだろうなぁ・・・明日はしょっぱなから確認テストだって、先生がおっしゃられていたもの)



僕?僕はと言えば、今日は学級委員長委員会。・・・珍しくも。


(ああ、憂鬱だなぁ〜・・・。前の頻度で、いいのに・・・)


学級委員長委員会がきらいなわけじゃない、鉢屋先輩は頼りになるし、庄左エ門は(悔しいけど)いい相談相手で手本になるし。


だけど、僕は二人みたいに優秀じゃないし。だから少しだけ居づらいし。


(・・・それに、だって僕は)




「彦四郎っ」




頭上から聞き知った声。
思わずうわあっと叫べば、落ち着かせるように大きい手が肩に置かれて、これまた見知った・・・いや、最近知った先輩が顔を覗き込んできた。


「ごめんごめん、そんな驚くとは思わなくてさ!」
「お、尾浜、勘右衛門・・・先、輩」


尾浜先輩は僕の言葉に笑い、

「どうせなら一緒に委員会に行こうと思ってさ、寄ってみたんだ」

と話された。


僕の心臓はまだばくばく言っている。


最近学級委員長委員会へ入られた、新しい先輩。
・・・僕があまり学級委員長委員会へ行きたくない、本当の理由は・・・。



「もしかして、今日掃除当番とか?なら手伝おうか?」

「あ・・・い、いえ!掃除はもう・・・なのですぐ行けますっ」

「あ〜いいよ、ゆっくりで!前より仕事をするようになったけど、ほとんどお茶会なんだしさ〜!」



尾浜先輩はそういってにっこり笑われる。

その笑顔があんまりにも眩しくて、僕はうつむいて
「は、い・・・」
と言葉を絞り出した。



最近。

最近、学級委員長委員会へ行きたくない。

だけど、それは劣等感を抱いているからじゃない。



(ほら、ほら、今日だってやっぱり僕は、尾浜先輩のことが好きなんだ!)



柔らかい髪も、明るい笑顔も、その人懐っこい態度だって。


(でも、僕は何一つ、見合うものをもっていない)


だからこの恋心を知られちゃならないんだ。
知られたら尾浜先輩はきっと不快な気持ちになるんだから。









「おっまたせ〜」

「お、来たな〜勘右衛門!彦四郎!」

「お疲れ様です、尾浜先輩。彦四郎もお疲れ様」

「ああ、お疲れ庄左エ門・・・」



「って、勘右衛門・・・お前また甘味買ってきたのか?」

「まあね〜!あったほうが仕事がはかどるでしょ?」

「いや、逆にお茶会がはかどるだろ」

「まーまー!もうお茶を淹れてもらってあるみたいだし、まず食べないか?」



そういって座る尾浜先輩に、鉢屋先輩も呆れたように座る。


そして僕ら二人も座り込めば、尾浜先輩はどこからか小袋を取り出して、その中の和菓子を手に取る。
そしてまず鉢屋先輩へ手渡した。


「はーい、これは三郎な」
「ああ」


(うわぁ、見事な和菓子だなぁ!)


丁寧に繊細に作られたであろう、見て楽しむ和菓子は、鉢屋先輩の好みだったんだろう。


ちゃっ、と紙と筆を出し、デッサンしようとする鉢屋先輩は実に楽しそうだった。



「で、これが庄左エ門ね」
「ありがとうございます」


庄左エ門の手に乗せられたのはこれまた丁寧に作られたであろう和菓子。

でも鉢屋先輩のより落ち着いた、お茶によく合いそうなものだった。



(・・・すごいなぁ、まだ学級委員長委員会へ入られたばかりなのに・・・。もう、二人の好みをわかってるんだ・・・)


まぁ、鉢屋先輩とは五年の付き合いだから当たり前だろうけど。


・・・僕の好みも、知っていただけているのかな?
二人のように、僕のも・・・。



「で、最後に彦四郎はこれ!」



ボウッとしていたら、目の前に尾浜先輩の大きな手が差し出されていて。



「は、はいぃっ」



・・・その手に乗せられていたのが見知った和菓子とわかり、僕の声は裏返ってしまった。

一瞬尾浜先輩は目を開き、そして苦笑する。




「そんな声出すなって。別に変なものじゃないだろ〜?」

「す、すみません・・・」

「はははっ!なんだよ勘右衛門、もしかして嫌われてるんじゃないのか〜?」

「やめてください鉢屋先輩!」



鉢屋先輩の言葉に慌てて否定しようとすると、先に庄左エ門が咎めてくれた。

それに鉢屋先輩が口をとがらせ、こんどは尾浜先輩が、


「なんだよ三郎、お前こそ庄左エ門に呆れられてるんじゃないか〜?」


と鉢屋先輩をからかいだした。



僕はほっとして、手に渡された和菓子を見る。



(・・・この前の委員会のとき、僕が食べて気に入ったやつ、だ・・・)



前の委員会の時は時間がたくさんあって、尾浜先輩もたくさん甘味をもってきていた。

それを四人が日々の相談や改善策を練りながら、思い思いに手を伸ばし食べたのだ。



(みてて、くれたんだ・・・)



「さて、そろそろ委員会をはじめるか!」



三人が口を開きながら、お茶を飲み和菓子を食べ始める。


僕もいそいそと和菓子を口に運んだ。

・・・やっぱり、うんと甘い。



「ん、あま」



尾浜先輩の声に顔をそちらへ向けると、尾浜先輩も同じものを食べていて。


目が合うと、尾浜先輩はニッと笑う。


「ー彦四郎がこの前うまそうに食べてたからさ。ほんとうまいな、これ」


少し餡がついた指をなめる・・・そんな仕草さえかっこよくて、胸がきゅんきゅんと苦しくて。




・・・この前より、甘く感じた。

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