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□ベル
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「……ぷはぁー・・・」
今日も名無しさんはお酒を飲んでいた。
「しししっ!まぁーた飲んでんの?」
「ん……?任務前は飲まなきゃやってけないでしょー」
彼女はめんどくさそうに、まるで息を吐き出すかのように言葉を出すと、また呑み始めた。腕時計を見てみると既に針は23時を指していた。
「なぁ、そろそろ時間じゃね?」
今日は珍しく名無しさんと一緒の任務だった。
王子の嵐と雨の彼女はなかなかそりが合わずに仕事に支障をきたすからとペアにはしてくれなかった。事実、今もすごくイライラしている。
任務は確か0時から朝方にかけての時間帯だったはずだ。
「……」
名無しさんは聞いているのかいないのか、ただ酒を煽り続けた。
「きいてんの?」
やはり彼女は応えなかった。
ゴクリ、と喉が上下するのを見届けてから言葉を発した。
「なぁ、何でわざわざ任務前に酒飲むわけ?」
このままでは埒が明かない。さっさとその口を止めてやろうと話題を提示した。
「アハ……おこちゃまにはまだ早いよ」
今度は意外にもあっさり答えた。おこちゃまって何だよ。
どんどん募るストレスにサディスティックな欲求もそれに比例するように増えていった。
「あ、」
――ねぇ――
彼女はグラスの縁をつつ…となぞると溜息とともに言葉を吐き出した。
――知ってる?――
――アルコールって感覚を鈍らせるんだよ――
ふとこぼした彼女の言葉がなぜか耳から離れなかった。
−−−
「あーあ……」
特に意味のない母音だけの音に耳を傾けた。ついでに、目も。
月の怪しい光を背に血の滴る刀を持った彼女はサイコーに綺麗だった。とても悔しいことに。
「派手にやってんね」
む、と口のはしをへのじに曲げて言った。
彼女は機嫌がいいときほど任務で派手に殺る。
まぁオレが言える事じゃねーんだけど。
今日はキゲンがいいようだ。
「アハ……お腹やられちゃったー」
表情は一切変わらず、ただ何処かを見つめて言葉を発した。
ちろり、とその大きな猫目をこちらに向けて隊服をぺろっとめくった。
「……痛くねぇーの?」
いつも見慣れてる血なのに、白い肌に赤い血が流れる様子は、何処か痛々しかった。
それでも彼女はたのしそうにペロリと赤い、まるで血のような唇を舐めた。
「アハハ………言ったでしょ?」
アルコールは
――感覚を
鈍らせるって――
そう言った彼女は、狂気的で、それでいて天使のようで、だけど猟奇的で、なのに聖母のように優しげな……そんな形容しがたい不安定な笑みを浮かべていた。
その間も、アハハハハ、と乾いた笑みを垂れ流し、普段なら吸い込まれそうなほど綺麗な瞳は月の光さえうつしておらず、どんよりと曇ってさえ見えた。
そんな彼女を美しいと思うオレはそれに魅入ってしまうオレは……