濃紅〜こいくれない〜
□第弐話『されど、命。』
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ここは…何処だろう。
古く腐ったような臭いがする……血と…骨?
手に触れるふわふわは…羽?
暗い。何も見えない……
嗚呼…駄目、考えられな…いよ…
意識…が…沈…む…………。
鍵宮みきは薄暗い小屋の中にいた。
目覚めては、意識が沈む。その繰り返しの中、自分の近くには女がいることがわかった。朦朧とする頭、あばら屋の壁板の隙間から差し込む月の光がうっすらとその影を見せて、自分はどのような状況にあるのか段々と解ってくる。
ここは…私の家じゃない。
そうだ…私はさらわれた…
じゃあここは…何処?
どうすれば逃げ出せる…?
目が覚めても眠ったふりをしながら考えるみき。
助けを待つという考えは無かった。
相手は女だ、なんとかなる。そんな甘い考えでそこから抜け出そうとしていた。
…その頃、丁度出発する10分前。
透桜子は着替えていた。
黒の袴に上は紅い着物を着て、髪は朱の紐で高く結ってあった。腰に刀をさし、黒く、膝下まである締まったブーツをはいた姿で、庭先から皆に声をかける!
「さぁっ、出発するわよ!!」
「りょうかーい!あと…これなかなか使えるね」
そう言ってタオが空中に投げながら見せたのは緋月から受け取った二本の曲刀。柄は緑色で、手に良く馴染んでいるようだ。秘色の方もいつでも出られるらしく、いつの間にか下駄を履いて庭へ降りていた。
「よし、私もいいよ。緋月、結月。タオが後で女の子を運んでくるから、ひとまずの手当てを頼んだよ?」
「「はい。かしこまりました秘色様」」
「よし、じゃあ出発よ!」
目指すは北に10キロ先の黒錐山。透桜子が言い当て、ほぼここで間違いないだろうとの事だった。
人はほぼ立ち入らず、草と木が生い茂る山。透桜子は懐からだしたホイッスルのような笛をピューイッと鳴らす。
「飛ぶわよ!」
の一声で何処からか美しい白い鳥がやってきた。
大人三人はゆうに乗れそうなその大きな鳥が地面に降り立つなり三人は背に飛び乗り、白い羽根を撒き散らしながら飛び立った。
「透桜子、久しぶりだな。それで、何処に行く?」
乗ってすぐ、背にのる透桜子に向かって大きな鳥が落ち着いたバリトンボイスで喋った。
「久しぶりね、國黎(こくれい)。あそこに見える山、黒錐山へ急いでくれる?対価は後で払うわ。」
「了解。捕まってろよ」
そう言うと飛ぶスピードを速め、透桜子達は身を屈めた。透桜子と國黎の会話を聞いていたタオはしげしげと鳥を見るとへぇ…と口を開く。
「珍しい知り合いがいるもんだね?」
「まぁね?國黎には前に助けて貰った事があるの、それ以来仲良くしてるわ」
「二人とも舌噛むよ?」
髪を押さえながら秘色は言う。その時、國黎がもうすぐつくぜの言葉を発し目の前には黒錐山が迫っていた。
「流石!早いわねー!」
「今だ…飛べ!」
秘色の合図ともに三人は上空から飛び降りた。