perpetual-azure

□♯3 ひとりぼっちのPretender
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「はぁ、あたしが?ですか?」
翌日、いつもの如く何処かの超絶カッコいい伝説様をやり過ごそうとしているあたしの所にここの市場の会長さんが来た。

今更なのだが、この露店が立ち並ぶのは大体70番区域の外周で0番10番20番そして60番区域と繋がっている橋の袂にそれぞれが出店している形になっている。それはホテル街である70番区域と無法地帯と呼ばれる各地域との防犯も兼ねてのことで、その為か60番区域近くの出店者など海軍が押収した物なんかを扱っている半ば海軍公認の市場だった。
勿論あたしのような古物商だけでなく本来ならば40番区域にあっておかしくない土産物屋や工芸品、日用品に食物それはもうありとあらゆる物が売られている。
それでも育ちのせいかあたしは、30番グローブのショッピングモールやお土産屋が立ち並ぶ40番区域よりもここの方が好きだった。
「イリスちゃんなら宣伝効果抜群でしょ?」
「そりゃあ、あたしの方は全然構いませんけど。でも、いいんですか?あたしが書けば少なからず海軍が黙っていませんよ?」
話はこうだ。
先の頂上戦争で少なくないイメージをうけたマリンフォードからの避難家族がまだシャボンディには多くいる。そしてそんなところであろうとなかろうと、此処は海賊側からすれば新世界の入り口であり通らないという選択ができない場所である。
そんなわけで結構最近ではナーバスな空気がなんとなく町にはあって、売れない不景気な現状の言い訳にしていた。勿論町をあげて何かをやったところで何かが変わる訳ではないのだが、皆でお祭りよろしく何かやらないか?ということだそうだ。
その手始めにあたしに宣伝をしてくれないか、ってことなのだが一応これでも賞金首。ここの皆に迷惑がかかるのではないかと先の言葉に行き着く。
「なァに気にしてんだい。これでもこんなとこでこんな商売してんだ。皆それなりにはアレだったんだぜ」
「アレってなんですか、アレって」
ドン!と胸を叩いて大きく笑う会長さんを見て、確かに業者さん達というのはどこかそういう部分を持っているような気もしていたから妙に納得がいって笑って返した。
「じゃあ、頼んだよ」
「はーい、宜しく頼まれました」
あたしには連載もあるし、新作までの繋ぎでインタビューも幾つかあったからそこでの宣伝でいいかな。なんて思って手帳にメモした。その目の端であたしのブースの前を通り過ぎていくレイリー様を見る。相変わらずカッコいいことには変わりないし、もう一つ言うなれば隣にいる子に笑い掛けるその顔が反則なまでに優しい。
とか思っていると一瞬だけ、ほんの一瞬だけの気のせいかもしれないが目が合った気がした。狼狽してあたしは背を向ける。家で会ってないわけではなく、かと言って毎日の挨拶は逃げるようにするからろくに顔など見てはいない。それが悪循環なのは判っている。それでもそれしかできなかった。そのはずなのに今、確かにあの優しく細められた眼差しがこちらを向いたのだ。
「やーめたっ」
あたしは早々に荷物をまとめ市を後にした。
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