perpetual-azure

□#2 Sweet Little Cinderella
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大体こんなことになると分かっていたなら、もっとしおらしい物を頼んでおくべきだった。ギンギーってなんだ、ギンギーって。
自分を責めたところで時すでに遅し。目の前の誰かさんのせいで朝からロクに味覚が機能していない。で、その誰かさんはと言えばお馴染みらしい島の人達と飲んでる。
「何だよー、今朝帰ってきたって聞いたのにもう女連れかい?レイさんやっぱやるなぁ」
そりゃ伝説のレイリー様ですからそれくらい当然である。そう冷静に思うの反面、いつものこととモテ散らかしてるのを匂わせる発言にそれを気安く笑うその人に胃がムカムカしてくるの半分。取り敢えず手持ち無沙汰でヨジデー料理と書いてあるのを頼む。どうでもいい、どうにかなってしまえばいい。そう思うが『女連れ』という表現を否定しなかったところが少し嬉しくなった。そんなことは気にも留めていないのだろうがのぼせる材料には充分だった。

「シャンクスのところにいたと聞いたがなかなか元気でやっているようだな」
やっと落ち着いて、か席に戻ってくる……お酒片手に。
「はい。元気というか、元気すぎるくらい勝手です、あの船長は」
恥ずかしがっていても仕方ない、と目を見てそう答える。船長の話ならばそこまで緊張もしないし何か聞きたくないことに近付くこともないだろうと思った。
「そうか。キミにそう言われるとはあいつも仕方ないやつだな」
「まぁ、そんなところもちょっといいところなんですけどね」
実際あたしの理想は豪快でむちゃくちゃして大きく笑う自由な人だったからそこは間違っていない。きっと初恋のロジャー船長はそんな方だったに違いないと勝手に思っている。 そんなことを思っていたのがばれたのかレイリー様が笑んで話してくれる。
「そんな処は少しロジャーに似ているかもしれん」
その言葉に反応してしまう。ただ旧友の名を呼んだだけだ。それなのに胸が高鳴るのがはっきり判る。ロジャー船長を好きなことは隠していないし、レイリー様のことを好きなことだって幾度となく書いてきた。第一、毎回解りやす過ぎる手紙しか書いていない。だからこの反応に何も不自然なところはないのだが、なんとなくバツが悪かった。
「たくさんお話、伺っています」
当たり障りないように、でも最悪小説家としてという言い訳を免罪符に言った。
「ゲンコツがドハデに痛い、って」
いろんな事を聴いてきたのにいざ当人に何を聴いてきたかと言うと正直、とても伝えられないような恋い焦がれたことしか思い浮かばず、数少なすぎる選択肢の中からそんなのを選ぶ。
「……」
数秒の沈黙に地雷を踏んだかと謝ろうとする、が。
「はっはっはっはっはっ、そりゃあ大した物言いだな、あの2人は」
今や王下七武海の1人である船長の旧友とうちの船長ーあの人だって四皇だーを大笑いする。
ただの自分の所にいた見習いが言った昔話に過ぎない事は解る。あたしだって自分の兄貴分とその悪友の話だとしか思っていない。
けどそれがふとした瞬間、物凄く大それたことだと気付いてしまう瞬間がある。
職業柄、あたしは自分を俯瞰してしまうことがある。その時に自分のいる環境に戸惑うことが今までだってあったが、これからの自分の日常はそんな奇跡さえ当然の土台にしてしまうものなのだと思い知った。
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