perpetual-azure

□#2 Sweet Little Cinderella
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「はい、ギンギー料理特盛お待ち」
厳つい顔の如何にも食べるのを躊躇うーそもそも注文する人間がいる事の方が問題だと言っていいー料理をオーダーしたのは現実逃避というかヤケのようなものだった。
こんな事でもないと絶対に頼まないし、と机の上に迷惑にも散らばらした値札を手早く片付け晩御飯にする。
普段ならばそろそろ寝ている時間なのだがどうにも帰ることができないので、こうしてプチ家出という抵抗を行使する。どのみち原稿を書けそうにも無いので仕入れた物の整理というどうでもいい今やらなくていいことに逃げる。
「あー、ギンギーおいしい」
さして気持ちも入ってない感想を呟く。食事という生命活動は結構無心になれてこういう時いい。自分が生に執着しているわけではないのだけど無心になれるのならばそれも悪くない、などと思う逃げの理屈も併せて咀嚼した。

そもそも、だ。2年と聞いていたのにどうして半年も早く帰ってくるのだろうか。
そしてそれ程までに会っていなかったのにあの感じ。
自分の知らない大人の愛の形を知ってしまった気がして胸が痛い。
笑ってくれた、自分のことを一瞬だって見てくれたのにそれを粉々に打ち砕く笑顔も見てしまった。
「どうしろっていうんですか」
ヤケでかじり付いたギンギーを頬張った時だ。
「ここ、いいかな?」
もふっ、思いっきり詰まる。なんでよりにもよって今なのか。大慌てで飲み込んで“どうぞ”と消えそうな声で返した。
夕食時に食事処に来てしまった自分を恨むべきなのか、混雑している店内を見れば相席など当然の展開なのに今更後悔する。
「シャッキーが多分君が今日は帰らないつもりだろうからと言っていてね。それならばと来たんだが、邪魔だったかな?」
メニューを見るより先にあたしにそういうレイリー様。それならば、ってなんですか。そう思い上がるものの帰らないつもりさえ判られているのでは分が悪い。いや、もっと言えばずっと隠してきた想いなどあっさりばれていた事になってもう次どんな顔をしてシャクヤクさんに会っていいかわからない。
「邪魔だなんて、とんでもないです。むしろ、あの……その、いいんですか?」
とりあえず自分には先ずしなくてはならない返事があるからしたものの、余計な可愛くない一言がこの出しゃばりな気持ちを象徴させた。
「ん?なにがだい?」
興味深そうにあたしの方を見ながら意地悪な、そのくせ混じり気のない笑顔の質問が来る。

始まったばかりの時に心臓が煩いくらいの音を立てた。
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