perpetual-azure

□♯1 まだ見ぬ君への愛の詩
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小説家としてあたしはまぁ、売れている方だった。
だからあくまでも取材の一環、船長の知り合いだからということで暫くここにお世話になることになった。
“ソリダスター• リナリア”そういう少しふざけたーでも意味のあるーペンネームで船長に聞いた昔話を基に冒険譚を書いている。大っぴらにはそれは創作物として扱われているがその内容は紛れもなく“海賊王”の話だった。だから別にここに来たことに何の疑問も持たなかったと思う。事実、話が聞きたいしこの環境は書くのには打ってつけだった。
ただ、そうではない部分が大き過ぎてもしそれがばれてしまったらどうしようかと思っていた。こんなことは許されていない、何処かでそういう引け目があった。それなのにシャクヤクさんとは結構気が合って本当に仲良くしてくれて話していても楽しいとさえ思えた。
こんな出会い方をしたくなかった。そういう痛みがぬかるみのように少し温かくすら感じさせて深く引き込んで戻れなくする。
けど時々、端々の言い回しで心の深い処にそれとは痛みが広がる時がある。だから結局自分が“女”なのだと思い知る。
ここで引き返すことはできない。まだ、何も始まっていない。

シャクヤクさんは言ってた。
2年したら必ず帰ってくる、と。だからあたしはそこまではまだ今までと一緒。何も始まっていないんだ。

だからペンを取った。あたしにできること。あたしができること。

毎朝、新聞をくれるニュース•クーにそれを託した。
「もし貴方が飛び回る世界の何処かであの人を見たら渡してくれる?」
そう届かないかもしれない想いを託した。それはまるで自分の想いと同じように何処でどんな奇跡が起きて、それでやっと知ってもらえるかもしれない気が遠くなりそうな奇跡だったけれど、叶う時は必ず叶うから奇跡を信じた。

たまたま自分を助けてくれたのがベン•ベックマンだったから文章だって上手くなった。
たまたま自分が乗った船の船長がシャンクスだったからあの人を知っていた。
奇跡が起こった、何度も。だから今度も大丈夫。何度だってあの人の事なら奇跡が導いてくれる。
あたしの日常は昔のあたしが描いた夢、奇跡でできている。
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