オリジナル小説

□しあわせになる方法
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「ママ、これなあに?」
私はそこで食器を棚に片付けるのをやめ、声のする方向に振り向く。
そこに居るのは私達の娘、茜。茜は可愛らしいと思う。そう言ったら祐司に親バカだと言われる。
でも祐司には言われたくない、あなただってそうよ、そう、言ってやりたい。
だけど言わない、それだけ私が生んでくれた子を愛してくれているのだから。
茜はどちらかと言うと父親似だと思う、
昔どこかで「男の子は母親似、女の子は父親似」と聞いたことがあるが本当だろうか。
そんな事を思いながら茜の顔をまじまじ見る。…うん、祐司に似てる。
どこが似てる?と聞かれれば即答できるほど。
目は狐目で、かといって小さいわけじゃない。口は小さめ、笑うと大きくなって笑顔なんかはまさに祐司。
…祐司が女の子だったら茜みたいだったのかな、と考える。
手を頬にあてて茜に近寄りしゃがんでじっくりと眺めてくる。
そんな私を茜は不思議に思う事もなく、嬉しそうに目を細めながら笑ってくれる。…愛おしい。
「ママ、聞いてる?」
変なのー、と言いながら私にあるものを渡してくる、…これは。
「それ、なあに?」
茜が目をキラキラさせて聞いてくる。
ここで「ただのビデオカメラ」そう答えてもいいのだが、…茜は好奇心旺盛だから中身も知りたがるだろう。
私としては観てもいいのだが、彼女の父、祐司がこれの事を「俺の黒歴史!見たら離婚!!…いや、離婚はやめて、心折れる」と言っていたのを思い出した。
…離婚、それは私も困る。ただのビデオカメラで離婚なんて。
それに私達はまだ愛し合ってる。
熟年離婚ならまだしも、まだ愛し合ってるのに、浮気でもないのに別れるのはなぁ、と、考えながら手元にあるビデオカメラに目を移す。
「ママも気になるから一緒に見てみる?」
そう言うと茜は首が取れるんじゃないかと思うほど首を縦に動かし頷いてくる。
…さて、お父さんに見つかったらどうしようかな、そんな事をふと思う。
私の父親は人をからかうのが大好きだ。
祐司は苦手としている、そして父はそんな祐司をからかうのが大好きらしい。困ったものである。まぁ、私も一時期からかわれた事がある、あれは確か―。
「ママ、はやくみよー?」
思いふけっていると服を引っ張られる、…こういう相手の事を考えないのも、祐司似だ。
「少し待って、ママもこれ、久しぶりに見たから使い方が分からないの」
手に持っているビデオカメラを横に向けたり縦にしたりして操作確認してみる、
…どうやらこれは机か何かにおいてテレビに写す形のものらしい。
「茜、茜が持ってるイス、あるよね、小さな茜用のイス、それ持ってくてくれる?」
茜用のイスならテレビの前においても背が低いから後ろからでも見えるはずだ。
「えー、あかねがもってくるのー?」
…どうやら持ってくるのが面倒らしい、それはそうだろう、私のとったら小さい椅子、だけど茜にとったら重い大きな椅子だ、5歳児にはキツイ、かな…?
「茜ちゃんはもうすぐお姉ちゃんでしょ?きっと妹も茜の事、頼りにしてると思うなぁ」
そう、私のお腹の中にはもう1人、子供がいる。
もちろん、祐司の子供だ。後3カ月で生まれてくる。
「お姉ちゃん」その言葉に茜ははっとし、真剣な表情になると、「もってくるー」、そう言って走って行った。
走らなくてもいいのに、と苦笑しながら茜の後姿を見守る。
…祐司と出会って、何年かな、私が中1、この土地に来たての時だ。
第一印象は…最悪だった、怒鳴ってきたのだから。あっちも私の第一印象は最悪だったそうだ。
その時の事を話してくれるのだが、…申し訳ないと思うしかない、私は相貌失認になりたてだったのだから。
それはどんな病気かと言うと、人の顔が認識できない、
人の顔を見ても崩れたような…そう、お化けの様に見えるのだ。
だから誰が誰であの人は誰、ととっさに言いにくい、声や性格、歩き方、顔以外のもので判断するしかない。
だから祐司に会った時は…運が悪かったのだ、お化けとしか思えなかった、あれが人の顔だとは思わなかった。いま思えば祐司は結構良い顔をしてる、と、思う。
でも、初めて会った時にお化け、と言われた祐司はさぞ怒っただろう、だから部室にまで来て怒鳴った。
…まぁ、あのころからナルシストだとは思ってはいたけど。自分の顔に自信があると言う事は怖い。
それからだ、私と祐司の付き合いは。
他にも私の幼馴染の圭や祐司の親友がいた、そしてこのビデオカメラも。

「ママー、もってきたよー」
茜の体より大きい椅子を頑張って床に着かないように運んでくる、
…引きずって来ても良いのに、私は体力があまりない、だから何でも引きずる、洗濯物だとか、祐司の脱ぎ捨てたシャツとか…、案の定怒られるけれど。
そんな姿を見てるからか、茜は椅子を床にくっつけないように必死だ、手伝ってあげよう。
「ありがとう、茜、お姉ちゃんは何でもできるね、お母さんの事も助けてくれて凄くうれしい」
そう茜の手から私にしては軽い椅子を取り上げ、茜のふわふわした癖っ毛を撫でてやる。
そうすると茜はなぜかふてくされた顔になってしまった。

「わたし、もうおねえちゃんだもん、あたまなでてもらってもうれしくないもん!」
ははぁ、そうでしたか、失礼。
「なら茜はもう1人でおトイレ行けるね?」
意地悪くそう言うと茜のきりっとした表情が泣きそうな顔になり、
「むりー!!こわいもん!!」
小さなレディは色々難しいらしい、私もこうだったのか?
「そうだね、ママでも怖いよ」
機嫌を損ねないように自分も、と言っておく。
…でも事実、夜は怖い。ホラー等を見た後だと余計に。
「ママー、これどーするの?」
私の手元にあるビデオカメラをいじりだす茜。
早く見せないと祐司が帰ってくる。
「ちょっと待っててね、今準備するから」
私は茜からビデオカメラを取り返し持って来てくれた小さな椅子にセットする。
…これだとテレビにちゃんと映るかな。
茜は見る気満々らしく、テレビの前に正座している。
さて、振り返ってみようか、私達の物語を。
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