グラジオラス

□合宿 2日目
2ページ/5ページ




とは言うものの....



「少し重い、かな」


近くのスーパーに行き、必要なものを買うと鈴の左手には3つも袋がさがっていた。

右手で持てるかな、と1袋だけ持とうとしたが無理だった。


早く帰ろ。

そう思った矢先に....


「あの、すいません」


変な人に声をかけられた。

「な、んですか?」

「この地図の印ついてるところに行きたいんですけど....どこスかね?」

「....案内します」

「え、ホント?助かるわー!」


凄い笑顔....ちょっと胡散臭い。←


「行きますよ」

「待てよ。その荷物、持つ」

「....いいです」

「それくらいさせろよ」

そう言って鈴の荷物を奪う。

「うわっおもっ
こんなのよく片手で持ってたな〜」


何か....見た目も中身もうるさい感じの人だな。
特に髪型....これどうなってんの?

少し失礼なことを考える鈴。


「俺、黒尾鉄朗。あんたは?」

「椎名....鈴」

「鈴かー....高校生?
俺、高3年。鈴は?」

「高1です」

「若いねー」

「年寄りですか」

「高3だって」

「高3が高1に言う台詞じゃなかったです」

「まーな」


スムーズに流れる会話。

人付き合いは苦手な方だけど....

鈴は黒尾を見上げる。

何かスポーツするのかな?

「大きい....」

鈴の声が漏れた。

「あ?そーだな....鈴は小さいな」

くくっと笑う黒尾に鈴はムッとする。

「リベロは大きくなくてもいいし」

何言ってんだ。
誰もバレーの話はしてないだろ。

鈴が「すいません」と言おうとすると黒尾が口を開いた。

「バレーすんのか?」

「....今はしてません」

黒尾はチラリと鈴の右腕を見る。

今は、ね....


「俺、バレー部」

「聞いてません」

「強いよ、俺ら」

つよい....

「....聞いてません」

「特にレシーブが」

「レシーブが....」

「興味持った?」

にやりと笑う黒尾。

「別に....」

ふいと顔を横にそらす鈴にさらに にやにやする黒尾。

「何ですか」

その様子に心なしか鈴の無表情に不満が滲み出る。

「いーや?....おっここら辺だな....」

黒尾が辺りを見渡す。

え?

鈴は思った。

目的地、初めから知ってたんじゃ....

「あ、いたいた。研磨!」

黒尾の目線の先には....

プリンみたいな頭の人....と

「日向?」

「鈴!」

「じゃあ道案内サンキューな」

黒尾が「はいよ」と鈴に荷物を返す。

「道案内のお礼に送っていってやろうかと思ったけど必要ねぇな。
あいつ、知り合いだろ?持ってもらえよ。
もうこんな重いもん1人で持つんじゃねーよ。
....右腕、お大事に」


まさか....


「じゃあな」と固まっている鈴の頭を撫でて背を向ける黒尾。

「またね、翔陽」

そう言って黒尾の後を追うプリン頭。


まさか....
右が使えない私の荷物を持つために道案内させたの?


去っていく黒尾を見つめる鈴。
日向もぼーっと立っている。


「日向!探したぞ....て、え?鈴ちゃん?」

「菅原さん!」

日向が駆け寄る。

「....足りないもの買ってきたんです」

鈴は「何でここに?」と驚いた様子の菅原に言った。

「そっか、ご苦労様。それ持つよ」

「俺もー!」

「大丈夫です」と言いかけて黒尾の言葉を思い出す。


『もうこんな重いもん一人で持つんじゃねーよ』


「....じゃあ一つずつ頼んでもいいですか?」

「おう!」と言って2人とも鈴の手から荷物をとる。
手に残ったのは一番軽い袋。
小さな優しさに小さく漏れる笑み。

「ありがとう、ございます」

「「わ、笑った....」」

驚く2人にさらに驚く言葉をかける。

「ランニングで帰りましょう」

「え、俺らはいいけど....」

菅原と日向が顔を見合わせる。

「荷物あるけど鈴は大丈夫なの?」

日向が問う。

「体力はある」

「でも....」と心配そうな顔をする菅原に「大丈夫です」と鈴は走り出す。

「あっ待てよ!」

日向がそれを追いかける。
菅原も足を動かす。

.
次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ