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□不安
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「名無しさん。」

椅子に腰掛けながら、ガランとした店内に飾られるマスクや装飾品をぼんやり眺めていた。
突然背後からかけられる声に、
毎度の事ながら身を揺らす。

「う、うんっ?」

裏返りそうになる声で応えると、自らは後ろ姿のまま、少し離れた相手へと頷きかける。
彼は細い指にかけた空のカップを揺らし、首を小さく傾けた。

「珈琲しかないけど…飲む?」

いつもの質問1。
これは毎日聞かれることだが、答えられない。

「意地悪くない…?飲めないってば」

頬を膨らませて相手を小さく睨むと、表情も変えずに頷く。

「ミルクとレモン、あるけど」

質問2。
1の質問を裏切るように、問われる。
今までは置いていなかったらしく、ここ数ヶ月の間に用意したようだが、本人が消費している様子はない。
何だかんだと飲めるものを用意してくれているんだ、とポジティブに考えることにしている。

返答を待つのが面倒になったのか、
紅茶にミルクとレモンのカップを添え作業机に置くと、向かいに腰掛けて顔を覗き込まれる。

そんな彼に名無しは想いをぶつけ、幸運にも叶えるというミラクルをまだほんの1週間前に起こしているわけで。
相手の事はイマイチ把握していないのが現状だが、一応恋人ということで良いらしい。

それから名無しは、すっかりここに通い詰めるようになっていた。

しかし

(好きだとか言う言葉も…聞かないしなぁ…)

交際を初めて未だ7日。
不安に襲われるばかりである。
頭をめぐる思考はマイナスなものばかりで、近々禿げてしまいそうだ。

「ウタさん」

普段から押してはいる。
が…どうにもはぐらかされてしまう。今回こそはと毎度意気込むも虚しく、不安ばかりが募っていくのだ。
おまけに伝えられないという無駄なオプションもついているが、残念ながら利用回数は0。搭載不要な機能だった。

「うん…?なにかな」

いつもどおり。決められたような台詞が返ってきた。

「好き」

これも。

「よしよし。」

これも。

「……」

全部。
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