文章

□素直になれ
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「なー清正ぁ〜」

真昼間だというのに薄暗い曇天。
そう遠くない内に雨が降りそうだ。
今日は出かけずに部屋でごろごろ昼寝でもするか…。

そう清正が考えて横になろうとしたその時。
いつも騒々しい正則が、神妙な顔をして訪ねてきた。

「何だ?正則。どうかしたのか」
「ああ…うん…。いや何つーかよ、ちょっと相談があんだよな…」

どこか落ち着かない様子でいまいちはっきりしないもの言いの正則に、清正は首をかしげる。

「何だよ、歯切れ悪いな…。言いにくい事なのか?」
「あーうん、まぁそんなとこ」

まあ座れと座布団を放り投げ、清正は姿勢をただした。

「で、一体どうしたんだ?」
「それがよ…」
正則はそこまで言って一旦言葉を区切り、辺りを見回す。
人の気配がない事を確かめ再び口を開いた。

「俺最近おかしいんだ…。頭デッカチ見てるとよ、何つーか…すげぇキラキラしててあいつしか見えなくなって、そんで心臓がどきどきして苦しくなるんだよ…なぁ、俺病気かな?」

「……はぁ???」

正則の言い分を聞いた清正は、盛大に間抜けな声をあげてしまった。
こいつは今何を言った?そう思いながら。

「んだよ、聞いてなかったのかよ!最近頭デッカチ見てっと―――」
「や、待て!聞いた。言わなくていい!」
正則はご丁寧にももう一度説明しはじめた。
が、とっさに制止する。

「あ?そうか??んならいいんだけどよ…」
「…はぁ…。で、三成見てるとどきどきするって?イライラするの間違いじゃないのか?」
ため息をつきながら正則に問いかけると、正則は俯き唸るように答えた。
「それがちげぇんだ…。イライラってーか、何つーか…ほんわかする感じ?よくわかんねーんだけど」
「そ、そうか…。うぅ〜ん…」


どうしたもんか。清正は腕を組み唸った。
これは俗に言う恋というやつではないか。
わざわざ相談しに来るくらいだ、正則は己が三成に懸想していることなど気付いていないだろう。

「なぁ清正〜、どうなんだ?俺ヤベェのか???」

うぅむ…。と考え込んでいると、正則の問いかけでふと意識がそちらに向く。

「なぁ、それ本人に言ったのか?」
「三成にってことか?ああ、言ったけど?」

言ったのかよ…!清正はがくりと崩れ落ちそうになるのを何とか耐えた。

「へ、へぇ〜。言ったのか…。で、三成は何て言ってた?」
「それがよぉ、顔真っ赤にして怒って「知るか!自分で考えろ!」って言って
ドスドス歩いてったんだけどよ、途中ですっ転んでやがんの!あいつマジちょーウケる!!」

「そうか………」

ゲラゲラと笑っている正則をしり目に、清正は再び考え込む。
三成の反応を聞く限り、正則の事を嫌っている訳ではないらしい。
それどころか怒ってるというより照れて真っ赤になってるんじゃないかとか、わりと脈ありとしか思えない反応である。
恐らくそう言う事だろうと、言うべきか言わざるべきか迷った清正だったが、真剣に悩んでいるらしい幼馴染を見てここはひと肌脱ぐかと居住まいを正した。

「清正?」
「正則。いいか、良く聞け」
「お…おう!」
清正につられて正則も姿勢をただし、固唾を飲む。
「まず言っておくが、ムキになるなよ。自分の気持ちをよく考えろ。わかったか?」
「あ?…何かよくわかんねーけど…わかった!」
「よし…じゃあ言うぞ。多分…いや、多分じゃないな。お前、三成の事好きなんだよ」
「え?」

予想外の答えに正則が固まる。
「さっきお前が言ってた事聞く限り三成に惚れてるとしか考えられん」
「いやいやいや、わけわかんねーよ!?ありえねぇだろ!」
間髪いれずに清正に詰め寄り否定する正則。
清正は一つ大きなため息をついた。
「あのなぁ…。さっき自分の気持ちをよく考えろって言っただろうが」
「いや言ったけど!俺が三成に惚れてるって…普通にねぇだろ…」
幾分落ち着いた正則は座布団に座り直すが、どこか焦燥しているようである。

「よく考えろ正則。三成を見るとキラキラしてるように見えて更にどきどきするんだろ?そんでほんわかする、と」
「お、おう…。だけど…俺はそんな…!そんなはずねぇ!」
一言一言確認するように言うと、正則の顔に朱がはしりはじめる。
ムキになるなと言ったのに、さっそくムキになっている正則を見てもうひと押しだな…と、清正は確信した。

「ほう、そこまで言うなら…。俺の勘違いだったか…?」
「…おう!そうだぜ清正ぁ〜。そもそも…」
安堵したように正則が答えたが、清正はそれを遮るように口を開いた。
「なら、俺が三成を貰っちまうぞ。いいんだな?」
「なっ…!」
「いいんだな?答えろ、正則」

驚いて口をパクパクさせている正則に、たたみ掛けるように詰め寄る清正。
「俺が三成を貰う」
「清正が…」
「ああ」
「三成を…?」
「そうだ」
正則は、先ほど清正がしたように一言一言確認するように言葉にした。
清正は赤くなった正則の顔を見ながら、さっさと素直になればいいのにと苦笑した。
身体(顔)は正直だが思考が追いついて行かないらしい。

「あいつは顔だけはいいからな…。それでもいいのか?正則」
トドメだと言わんばかりに、清正は正則を見据えた。
その視線に耐えられず正則は目をそらし俯いた。

「―――だ」
「だ?」
「ダメだダメだーっ!!!いっくら清正でもそれだけは許せねぇ!」

俯いたかと思いきやすぐに顔を前に向け清正をねめつける。
「何でだ」
そのにらみをまるで意に介さないように、清正が訊ねた。

「俺が!」
「お前が?」
「頭デッカチに!」
「三成に?」
「ほ、惚れてるからだっ!!清正にも誰にも渡さねえ!」
ふうふうと肩で息をし、茹でだこのようになりながら正則は断言した。

「…はぁぁ〜、ようやく認めたか」
顔を真っ赤にしながらもようやく己の心を、気持ちを認めた正則に、
清正は盛大にため息をつき思いっきり背中をはたいた。

「〜〜〜ってぇ!何すんだよ清正ぁ!」
「うるさい馬鹿。さっさと三成んとこ行ってこい、そんで今言った言葉そのまま言ってこいよ」
「あ、あぁ…でも清正は?いいのかよ」
さっきまでの勢いはどこへやら、急に清正の事を気にかける正則。
「馬鹿、冗談に決まってる。あーでも言わないとお前、自分が無意識にでも本当に思ってる事言わないままだっただろ」
いいからさっさと行けと、正則の腰を叩く。
「清正ぁ…お前いい奴だな…!恩に着るぜ!」

来た時とは反対に元気になった正則はスパーン!と障子をあけ、去り際に「あんがとな!」と声をかけてドタドタと走り去っていった。
既に姿は見えないが、「お〜い!頭デッカチー!」「みーつーなーりー!」などと三成を呼ぶ声がする。


「…そのうち鉄扇で打たれそうだな、あいつ。それにしても元気なやつ…」
そう言いながらふと外を見ると、パラパラと小雨が降り始めていた。
清正は障子をしめ直し、座布団を二つ折りにしてごろりと横になる。
「頑張れよ正則。…ふわぁ…」
幼馴染の恋が上手くいけばいいと願いながら大きなあくびをこぼした清正は、今度こそ昼寝しようと目を閉じるのだった。







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当初予定だったのとはちょっと話変わっちゃいましたが…。
正則(無自覚)→←←←三成(自覚済)とても美味しいです!
多分続く…というか、三成サイドも書きます!



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