セブンスドラゴン2020―U

□ハプニング
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「「ぎゃあぁぁぁあ!!」」

 ムラクモ居住区に位置する13班の部屋から甲高い悲鳴が木霊する。突拍子のなく響いた声に同室にいたアルドラ、セギヌス、ミラは何事だと言わんばかりの顔を浮かべて声の主へ視線を向けた。彼らの注目を浴びているのは新人のベネティとライカ。二人とも目に涙を浮かべて互いを抱いて震えている。

「い、今の……み、見間違いなかったわよね……?」

「うんうん、あたしも見たよ……あ、あれを……あれを……」

 上ずった声で確認する二人は端見れば正常じゃないのが分かる。とにかく何かあったのか訊くためアルドラは二人に近付いた。

「二人落ち着いて。一体何があった――」

「「落ち着いて何ていられないわ(よ)っ!!」」

「だってあれを見たら絶対無理に決まってるじゃない!? 今まで出くわさずにラッキーって思ってたのに――」

 しかし今の二人に宥めようとしてもどういう訳か逆効果。矢継ぎ早に理由を話すライカだがピタリと滑舌が止まる。代わりにベネティが「ひっ……」と小さな悲鳴を漏らした。

「「また出たあぁぁぁぁぁあ!!」」

 最初の悲鳴、アルドラへの反論と並びものすごいシンクロ率でハモり壁を指差す二人。釣られるようにアルドラ達も見て……理由を納得した。指した方向にいたのは光沢感のある黒い何か。親指程の全長を持つそれは細長い二本の触覚を揺らしながら壁伝いに素早く動いていた。確かにあれを見て悲鳴を上げずにはいられないのも頷ける。好きな人なんて何百万人に数人ぐらいしかいないだろう。

「なんだぁ、ゴ――」

「「奴の名を口にするなぁ!!」」

 拍子抜けたミラの言葉を見事なシンクロで二人は遮る。名前を聞くだけでも拒否する辺り彼女達は相当嫌っているようだ。このままでは彼女達は永遠に騒ぎ立て続けるに違いないし何より可哀想だと、思ったアルドラは手頃な雑誌を見つけて筒状に丸める。スリッパやハエ叩きの代理にもなるあれの退治方法だが彼女が動き出す前にすたすたと壁へ向かっていく人影がいた。彼は壁まで行くと休憩しているのか動きを止めているそいつを……何も躊躇う事なく掴んだ。そう、素手で。

「「%#〇$□*£ーー!!」」

「そんな拒絶反応しなくたっていいじゃん。ほら、こいつだって命を抱いて一生懸命生きてるんだからさ――ってうわっ!?」

 言葉が聞き取れない悲鳴を迸らせる二人をよそにそいつの腹を見せながら語るセギヌス。言葉は深い意味を持っていても逃げようともがくそれを掴みながらでは全くをもって説得力がない。すると、そいつは悪あがきと言わんばかりに翅を開いて暴れだす。そいつは俗に言う昆虫の類いのため体と翅を守る外殻は意外と硬い。それが手に当たると結構痛いのだ。そんな訳でしっぺ返しを喰らわしてセギヌスの拘束から離れたそいつは勢いに任せるがまま中空を滑る。
 昆虫特有の低い羽音が奏でればベネティとライカは劈くような悲鳴を上げてセギヌスとミラはモスキートV並みの耳障りな声に顰めっ面をして耐え、アルドラは逃げようとするそいつを目線で辿る。三者三様の行動を取る三人から逃げるためそいつが向かった先は廊下に繋がる唯一の扉。

「あっ、そこを開けば逃げる――」

「おぅ、帰った――いでっ!?」

 アルドラが動こうとする前に開かれる扉。そこから必然的に入ってきた人物は依頼をこなして来たカグヤだった。帰ってきたと報告しようとした言葉は胸板辺りに何かが激突した痛みにより遮られる。何だろうと本能に従い視線を下げれば服の上に黒光りした何かが止まっていて。瞬間、顔の血の気が一気に引きカグヤの体は後ろに引っ張られるように倒れていった。

「いやぁぁぁぁあ! 兄貴が、兄貴がぁぁぁぁ!!」

「えっ、ちょっとコカブ君!! 大丈夫!?」

 カグヤが倒れた事によりいよいよライカがパニックになる。アルドラが駆け寄るとそいつは身の危険を感じカグヤから降りて再び室内を這いずる。

「ぎゃあぁぁぁぁあ!! こっち来た、てか来ないで燃やすよ!?」

「うわわっ、ベネティ、室内でフレイム放っちゃダメ!!」

 どういう訳かベネティの所へ向かっていく奴に彼女はとうとう理性を保てなくなり、フレイムを打ちまくる。被害の拡大を抑えるためにセギヌスはファイヤブレイクで壁や備品などをカバーしながら呼び掛けても今の彼女は聞く耳も持たない。
 結局、ミラがダガーで奴を仕留めるまでこの騒ぎは収まる事がなかったのであった。
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