ポケモン不思議のダンジョン――月光の軌跡――

□05.二人に導かれて
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「ところで……フィオナはこれからどうするのですか?」

「え……えっと……」

 握手を交わしたティナはフィオナを心配そうに見る。自分達には帰るべき場所があるが、彼女は元人間で記憶喪失……自分がどこに住んでいたのかさえなくした彼女は行くべきかはっきりしていないはずなのだ。案の定、フィオナは困ったような顔をして口ごもる。

「ねぇフィオナ。もし、行く場所がないなら来て欲しいんだ」

「ラシード……そうですね。フィオナ、ついてきてくれませんか?」

 するとこの状況を見かねたラシードが口を挟んだ。フィオナ達は彼が割って入ってきた事に少し困惑するが、ティナはラシードが言った事を理解したようで未だに困った顔をしたフィオナを促す。フィオナは話に若干ついていけてないようで何度も首を傾げながらラシード達を追いかけた。










――とある家の前――

「着いたよ!」

 ラシード達についていくことおおよそ数十分。ようやく目的地に辿り着いたフィオナの眼下に映ったのは何かの果物か野菜のような屋根を持つ小さな家だった。

(なんだろう……すごく感動するわ! 本能的にというか……こんな感情が味わえるのもイーブイだからこそなのかな!?)

 質素に造られた家を目の前にしてフィオナは感動していた。その証拠に彼女の尻尾はものすごい勢いで振っている。

「どうやら気に入って頂けたようですね」

「えぇ! なんだか嬉しい気持ちが込み上げてくるような……そんな感じがしたの!」

 ティナが安心しながら微笑むとフィオナは飛びっきりの笑顔で嬉しさをアピールする。

「せっかく気に入ってくれたし……よかったらここに住んでよ!」

「え……!? でもいいの?」

 ラシードの提案にフィオナは食いついたが困ったように顔を俯かせる。すると彼女の言いたい事を汲み取ったのか、ラシードが再び口を開いた。

「あっ、ひょっとして迷惑じゃないかって思った? でも大丈夫、ここは僕とティナしか住んでいない平気だよ。それに部屋はなかなか広いから三人いても窮屈じゃないよ」

「そうですよ。それに行く当てがないのならここにしばらく住んで目的を立てるのも構いません」

 二人の話を聞き、フィオナは少しほっとした顔を浮かばせた。

「せっかくだから中においで? 案内するから」

 ラシードはフィオナに優しく語りかけると家の中に嬉しそうに入っていった。その様子を見てティナも呆れながら家へと入っていく。そしてフィオナは……

(中はどうなっているのかな? 楽しみ♪)

 喜びに感浸りしつつも、内装に興味を持ったらしいフィオナは終始笑顔のまま二人についていった。








 家の中は黒土の地面を除くとまるで外見を刳り貫いたような作りとなっていた。奥には大きな藁が敷かれており、さらに窓辺には二段ベッドが設置されている。枕元には水が入った壺、壁には地図が貼っており、テーブルとイスが備わっているなど生活に必要な最低限の道具が常備されていた。

「わぁ……ここなら住めるわ!」

「実際に私達が住んでいますけどね」

 嬉しそうに尻尾を振るフィオナにティナは呆れ気味に突っ込む。理由はこの家にティナ達が住んでいるということをフィオナが既に忘れて誰も住んでいないと思っているため。現にフィオナは指摘され「そうだったね」と舌を出して笑う。どうやら、入り口で言った事を完全に忘れていたようであった。

「これからはこのベッドを使いなよ」

「え!? いいの!?」

 大きい藁が敷かれた所を指すラシードにフィオナはさらに目を輝かせながら詰め寄る。彼は「もちろんだよ」と言いながら微笑んだ。

「あ、そうだ! フィオナ、お願いがあるんだけど……」

「お願い?」

 急に真面目な顔つきへと変えて頼みを聞いてきたラシードにフィオナも真剣な面持ちへと変わっていく。

「実は……僕達と一緒に救助隊を組んでほしいんだ」

「救助隊……?」

 ラシードが言った救助隊という聞き慣れない単語にフィオナは首を捻った。

「救助隊とは例えば今日のキノ君みたいに災害で困ってたポケモン達を助ける仕事です」

「へぇー」

 そんな彼女を見かねてティナは丁寧に説明をすると、フィオナは納得したように頷いた。その彼女を見てラシードは口を開く。

「今日みたいに困ったポケモンを放って置けないし……それにフィオナとなら……いや、三人ならやれる気がするんだ! だからお願い!」

「うーん……でも……」

「確かにそれもそうですが、救助隊になれば情報もある程度入って来ますし……フィオナの記憶の手がかりも見つかるかもしれないですね。……まぁ、組むかどうかはあなた自身で決めるのですが」

「それ、本当なのっ!?」

 フィオナは一瞬悩んだものの、ティナの捕捉により垂れた耳がピン、と立つ。

「(これってあたしにとってまたとないチャンスよね!? それに……人助けも悪くないし……よし!)いいわ、組みましょ!」

「フィオナ……! ありがとう!!」

 フィオナが承諾するとラシードは嬉しそうな笑みで彼女を見ながら小躍りする。その目はもちろん、キラキラと輝いている。

「とりあえず、救助隊を組むことは分かりましたが……登録はまた明日にしましょう。今日はもう遅いですし」

 はしゃぐラシードに対してティナは冷静に判断を下す。窓から見える空模様はオレンジの範囲が小さくなり、黒色の夜空が支配し始めていた。

「うーん、そうね。それじゃ明日にしよっか」

「えぇー!?」

「子供みたいに膨れっ面しても無駄ですよ」

「ちぇ……分かったよ……」

 女性二人の判断にラシードは不満気だがティナに睨まれ渋々頷く。そして彼らは明日へと期待と不安を膨らませ、就寝した。

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